米国ポートランド(オレゴン州)では様々な取り組みがなされている。ポートランドからシアトル(ワシントン州)にかけてのエリアは、シリコンバレー(カリフォルニア州)に次ぐハイテク産業のメッカでもある。
1960年代まで全米でも環境汚染と荒廃が進んだ都市であったポートランドは現在、「全米で最も住みやすい都市」「全米で最も環境に優しい都市」などの全米ランキング第1位に選ばれている。
なぜ環境を再生することができたのか。主因に、トム・マッコール・オレゴン州知事(在任67〜75年)が掲げた「都市成長境界線」の制定による土地利用計画がある。開発が認められる都市部と厳しい基準をクリアしないと開発が認められない郊外部を区分する境界線を設定するもので、これによって自然環境の保護と経済発展のバランスを保つことができている。市民にとっては都市部から容易にカントリーサイドに行くことができる。
ポートランドの中心市街地は南北約3km 東西2kmからなり、市民は徒歩や自転車で容易に移動することができる。今回、高齢化の話を聞いたポートランド州立大学は、学生数が約2万人の大学で、街の中に溶け込んでおり、緑が多く雰囲気が良い。この中でファーマーズマーケット(写真①)も開催されており、地産地消を実現している。住民の地元指向が強く、また街自体がそれに応えることができている。徒歩20分圏内の街を目標にコンパクトシティ化しているのである。
高齢者を他の世代と平等視する
ポートランドの高齢化対策には高齢者も他の世代と平等であるというリベラルの考えが背景にある。実はポートランドはLGBT(性的少数者)も多い。逆に言えば、自らが自らの想いを表面に出しても生活しやすい街ともいえる。この文脈で高齢者に対しても区別をしない街づくりという概念がある。障がい者、多人種、LGBT、高齢者などのレッテルを貼らないということである。
世界保健機関(WHO)が2002年に「アクティブエイジング(活発な高齢化)」を提唱、高齢になっても健康でいきいきと社会参加をして暮らすことや、そのための社会的な取り組みの必要性を示した。それに基づき、06年から「エイジフレンドリー・コミュニティ(高齢社会で全ての人が心地よく年を重ねられる生活環境)」というプロジェクトが始まり、ポートランドは当初からの参加メンバーとなっている。
キーワードとして、人口の都会への移動、85歳以上の「oldest old」というべき人口の増加、移民も含めた多様性、家をどのように設計していくか、高齢者の経済問題、そして高齢者の疾病及び介護といったことが挙げられている。このプロジェクトに基づきWHOはエイジフレンドリーな都市のネットワークを作ろうとしている。
ちなみに、米国の人口ピラミッドは日本とは全く違う状況である。日米で公平と平等の考え方の違いがあり、平等を実現するためにも公平という考え方を徹底したいというのがポートランドの考え方である。ただ、「8to80 initiatives」のように、80歳以上と8歳以下では状態が違うということで別に扱ったりもする。また、公衆衛生の従来型アプローチでは低所得者への対応が多くなるが、ポートランドでは中間層50%、貧困層20%、富裕層30%というように切り分けて考えており、公平と平等の違いを表していると思われる。
その他のキーワードとして、若い時の教育の影響で老年期が変化する、65歳以上でもアントレプレナー(起業家)として成功する例が多い——などがある。
緑などの自然や教育の機会を重視し、移動を簡便にするといった取り組みもある。例えば、以前無料だったトラム(路面電車、写真②)は最近の経済状況で有料になったが、高齢者に対しては「名誉市民(honored citizen)」として割り引きしている。ポートランドでは在宅でのエイジングを目指しており、日本の社会福祉法人伸こう福祉会の米国法人がポートランドで取り組んでいる「アンコールプレナーカフェ」のようなものを民間が行政と協力して行っている。ただ、介護保険がない米国では介護に関してはあくまでも民間が中心という考え方が強い。
高齢者も住む里親施設
なかなか面白い発想の施設も見学させていただいた。ポートランド北部のPortsmouthに11年にオープンした「Bridge Meadows」という低所得高齢者施設である。ここは親のいない子ども達とその里親からなる多世代住居者コミュニティーである。現在は合計69人の住居者(青少年:30人、里親:9人、高齢者:30人)が住んでいる。高齢者は55歳以上で、入居するのに厳しい審査(身元調査、犯罪歴調査など)があり、入居後はボランティアの要件などがある。
入居してくる里子は、親から虐待を受けたり、その可能性があったりするため保護された子ども達である。通常の里子制度では子供達が成人するまでに何回も家を移り、里親が変わったり、違う地域に移ったりするなど非常に不安定である。しかしこの施設では、比較的長期にわたって、里親が面倒をみている。
さらなるポイントは、高齢者の存在である。里親や高齢者は子ども達の送り迎えや家庭教師、その他のボランティア活動を行うことで「必要とされている」という生きがいを感じており、お互いにメリットがある。その他、様々な支援サービスやプログラムが提供されている。
また18年、ここを卒業した(18歳以上の)若者も含め、心に傷を負った若者の自立を支援する施設が近隣にオープンした。さらに、ポートランド郊外のBeaverton(近くにインテル社があるため、半導体関連の日系企業が多く、ポートランドでは日本人人口が一番多いエリア)にも、17年に住居施設を開設している。
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