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未来の会

「がんゲノム医療」と「遠隔ロボット手術」の展望

「がんゲノム医療」と「遠隔ロボット手術」の展望
2つのプロジェクトの各トップリーダーが講演

日本医学会連合が9月に開いたメディア懇談会で、医療の転換点となる「がんゲノム医療」と「オンライン手術」のプロジェクトについて、それぞれのトップリーダーが現状と課題を報告した。

 がんゲノム医療については間野博行氏(国立がん研究センター理事・研究所長・がんゲノム情報管理センター長)が「がんゲノム医療の始動」、オンライン手術については森正樹氏(日本医学会連合副会長、日本外科学会理事長、九州大学大学院消化器・総合外科教授)が「オンライン手術(遠隔手術)について」と題してそれぞれ講演した。

がんゲノム医療で世界をリード

 今年6月、日本でいよいよがんゲノム医療が皆保険制度の下でスタートした。がんゲノム医療とは、患者の腫瘍や正常組織のゲノムを調べ、その結果に基づいて最適な治療介入を行う医療である。こうした医療が行われるようになったのには、それなりの背景がある。

 「がんの原因遺伝子が次々と発見され、それぞれの原因に対する分子標的薬剤が開発されてきたことが1つ。もう1つは、技術革新により、ゲノム異常の有無を1度に解析できる次世代シークエンサーが登場したことです。こうした状況がそろうことで、医療サービスとしてのゲノム医療がスタートしました」(間野氏)。

 がんゲノム医療はアメリカがリードしてきた。最初に始めたのはファウンデーションメディシンという会社で、医師が腫瘍のサンプルを送ると、そのゲノムを調べ、リポートを送り返すというサービスだった。リポートには、どのような遺伝子変異があり、どのような薬剤が使えるか、どのような臨床試験があるか、といったことが記載されている。

 このようながんゲノム医療は、アメリカで数多くのサービスが登場したし、フランスやイギリスなどでも行われるようになっている。まさに世界的な大きな流れになっていたわけだ。その中で、日本はどのように取り組んでいくのか話し合われた。それが17年に開かれた厚生労働省の「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」である。間野氏が座長を務めた。

 「日本には皆保険制度がありますから、日本でがんゲノム医療を始めるとすれば、少なくとも10万人以上にサービスを提供できなければいけません。17年当時、厚労省は2年後にはがんゲノム医療を保険で始めると考えていました。そこで、そのためにはどのようなインフラが必要なのか、ということを懇談会で話し合いました」(間野氏)。

 そこで決められたことが2つある。1つはがんゲノム医療を行う病院を指定することだった。安全にがんゲノム医療を定着させるには、それができる病院を指定する必要があったからだ。そして、18年2月に、がんゲノム医療中核拠点病院として11病院が指定された。これだけでは全国規模で実施できないため、がんゲノム医療連携病院を選定。これが19年4月時点で156病院だった。つまり、計167病院で日本のがんゲノム医療がスタートしたことになる。

 「この段階では、検査結果を元に治療方針を議論するエキスパートパネルは中核拠点病院だけで開かれていました。これが少な過ぎてボトルネックになっては困るということで、連携病院の中から34病院をがんゲノム医療拠点病院に選定し、ここでもエキスパートパネルを開けるようになりました。現在は中核拠点病院が11、拠点病院が34、連携病院が122となっています」(間野氏)。

 がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会で決められたもう1つの重要なことは、がんゲノム情報と臨床情報を1カ所に集め、そのデータを利活用していこうということだった。そのために作られたのがC-CAT(がんゲノム情報管理センター)だ。患者の同意の下で情報を集めて知識データベースを構築することで、日本のがんゲノム医療を支援していくことになる。

 「C-CATにはゲノムデータと臨床データが集まり、大きなデータベースとなります。10万人分を超えるのも、そんなに先ではないはずです。がんのゲノム情報と臨床情報が10万人分を超えるスケールで集まっている国は他にないので、日本はがんゲノム医療が最も進んだ国になれる可能性があります」(間野氏)。

 現在は遺伝子パネル検査を受けても、適した薬剤にたどり着ける患者は1〜2割程度しかいない。これを向上させていくことが、今後の課題となっている。

離島・僻地でも高度な手術が可能に

 厚生労働省はオンライン診療を推進してきており、18年3月に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を出し、同年の診療報酬改定でオンライン診療料を創設した。

 「元々厚労省が推し進めてきたオンライン診療には、遠隔手術は含まれていませんでした。ただ、外科医が少なくなっている現状や、離島・僻地で手術を受けられなくなっている現状があるので、遠隔手術もぜひオンライン診療に含めていただきたいとお願いし、加えられることになったわけです」(森氏)。

 遠隔手術が現実のものとなってきたのは、手術ロボットと情報通信技術の発達があるためだ。手術ロボットを使って手術する場合、患者と術者の間には数mの距離があるが、理論的には数百km離れていても手術は可能である。2人の医師が同じ画面を見て手術できるデュアルコンソールの場合、指導医と研修中の医師が、同じ画面を見ながら手術することも可能となる。

 日本には既に350台以上の手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」があり、今後「5G(第5世代移動通信システム)」の普及などで、遠隔手術操作の遅延も解消できるようになるとみられる。

 「離島・僻地に若い医師が行きたがらない理由として、手術指導が受けられないことなどが挙げられています。遠隔手術が可能になれば、若い医師が離島・僻地でロボット手術をする時に、都市部の基幹病院にいる指導医がデュアルコンソールの一方を担当することで、指導を受けながら手術することが可能です。難しい部分を指導医が行うということもできます。こうすれば若い医師は離島・僻地にいても手術指導を受けられますし、その地域の患者は質の高い医療を受けられるようになります。日本外科学会を中心とする外科医グループが想定しているのは、こういった遠隔手術です。技術の高い外科医が全国各地の患者を手術するといったものではありません」(森氏)。

 遠隔手術を実施するためには今後、法的整備をはじめ、通信環境や手術機器、ガイドラインの整備などが必要になってくる。ガイドラインの整備については日本外科学会、日本内視鏡外科学会、日本ロボット学会が共同で検討を進めるという。

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