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リクナビ問題で懸念される「データ技術開発」の萎縮

リクナビ問題で懸念される「データ技術開発」の萎縮
基準を示さないと技術開発を萎縮させる可能性も

就職情報サイト「リクナビ」が学生の同意を得ずに内定辞退率の予測データを顧客企業に販売していた問題が波紋を呼んでいる。個人情報の取り扱いが不適切だったとして、個人情報保護委員会が8月26日に勧告・指導したことに次いで、厚生労働省も9月6日に職業安定法に基づいた行政指導に踏み切ったためだ。一連の問題は企業に対する学生の立場を弱めかねず、就職活動に不利に働く恐れが高いため、行政機関側が厳しく判断した形となった。

 一方で、データ活用に詳しい専門家からは「きちんとした基準を示さないとデータを巡る技術開発が萎縮してしまう可能性がある」と指摘する声も上がる。

 問題となったサービスは、「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが2018年3月から今年8月まで企業向けに学生の内定辞退率を予測する「リクナビDMPフォロー」だ。リクナビに登録した学生が閲覧した企業や業界のサイト情報を人工知能(AI)を使って分析し、就職活動中の学生が同業他社や他の業界のサイトを見た記録や閲覧時間の傾向から内定辞退の確率を5段階で算出するアルゴリズムを作成し、約8000人の情報を同意なく企業に販売していたのだ。

 8月2日に内部調査で一連の問題が発覚し、5日にサービスを廃止すると公表。26日に個人情報保護委員会が今年3月以降の就活生約6万2000人分の辞退率の販売について本人の同意のない個人情報を外部に提供したとして勧告・指導を実施した。同意を得ていなかった8000人分が重い「勧告」で、同意が不明瞭だった5万4000人は「指導」とした。

 これに対し、厚労省は同意があっても断るのが難しい状態にあったとして内定辞退率の販売が職業安定法違反に当たると広く解釈し、9月6日に行政指導に踏み切った。リクナビは本来、職業安定法が定める「事業情報等提供事業」だが、事業形態から実質的な人材紹介事業と判断した。

 当時の根本匠・厚労相は6日の閣議後会見で、「就活生の不安を惹起し、就職活動を萎縮させ、就職活動に不利に働く恐れの高い事業は今後行わないことを要請した」と厳しい姿勢を示した。厚労省幹部も「非常に悪質な事案だ。将来のある学生に社会への不信感を植え付けかねない。学生よりもビジネスを優先させた結果で、厳罰が必要だと判断した」と断罪した。

 というのも、リクナビはほとんどの就活生が登録し、年間利用者が約80万人に上る業界トップクラスで、就職活動を行う上ではリクナビを使わざるを得ない。ある就活生は「リクナビを使わないと就活にならない」と漏らす。

「イノベーションを阻害する意図はない」

 厚労省は職業安定法違反に当たるとした判断の根拠は、仮に同意があっても同意を余儀なくされた状態であるとし、行政指導の段階で公表に踏み切った。指導のポイントでは①業務運営や体制の改善②再発防止策の作成③丁寧な情報提供——などだが、行政指導は一定の強制力を伴う行政処分と異なり、任意で行うものだ。個別の指導内容が公表されることはなく、公表することで学生の個人情報を一層厳格に取り扱うよう求めた形になった。

 先の幹部は「こうした判断をすることが異例で、この対応から厚労省の意思を汲み取ってほしい」と解説する。個人情報保護委員会も勧告を公表しており、リクナビに対する強い姿勢を示していることが伺える。

 一方、どのようなケースが違法行為になるかについては、判断が示されていない。

 厚労省の担当者も「個別に判断するしかない」と説明するに止める。職業紹介業務を所管する厚労省としても、データを巡る技術開発に対する判断の基準を示すには手に余る状態だからだ。厚労省関係者は「イノベーションを阻害する意図はない」としつつも、その口は重い。

 厚労省は同種のサービスは自粛し、個人情報の管理を徹底することを求めて、サイト運営会社などで作る業界団体「全国求人情報協会」と「人材サービス産業協議会」に要請書を送っており、業界からイノベーションの発展を危惧する声が上がりかねない。

 ある有識者は「恣意的な運用にならないよう一般的な基準も示す必要があるかもしれない。データを巡る技術開発は日進月歩で、こうした開発が萎縮し、日本が取り残されていかないか」と指摘する声もあり、企業にとって個人情報をどこまで利活用でき、そしてできないのかという線引きには曖昧さが残った。

リクナビと距離を置く大学が出始めた

 こうした問題が持ち上がったのは、マイナビとの競争激化が背景にあるようだ。無料でサービスを学生に提供するが、顧客企業から受け取る掲載料でサイトの運営費や自社の利益を賄う。掲載企業数はリクナビが首位の時代もあったが、14年にマイナビが抜いた。リクナビが抜き返すこともあったが、今はマイナビの登録学生数は90万人で、リクナビが80万人だ。

 マイナビも過去の内定辞退者のものと比べた辞退率を予測しているが、マイナビの閲覧履歴と紐づいていないため個人情報保護法の第三者提供には当たらず、違法性はないという。マイナビの「勢い」がリクナビを違法行為に踏み込ませる動機に繋がったとみていいだろう。

 東京都内や関西圏の大学では、リクナビと距離を置く大学が出始めている。中央大は今後、就活イベントにリクナビを呼ばない方針だ。明治大も就職説明会で学生に紹介していた就職情報サイトの一覧からリクナビを外す。関西大も当面、就職セミナーの講師依頼を差し控える。同志社大もウェブサイトの案内や就職説明会の講師依頼をせず、立命館大も就活イベントの講師依頼を中止した。

 ある大学の担当者は「就職のサポートは建前で、利益を優先したという印象を受ける。情報開示も不十分だ。学生を欺いており、許せない」と憤りを隠さない。別の大学の担当者も「これだけ騒動になっている中で、登録を勧めるようなことはできない」と同調する。

 こうしたイベントを活用していた学生は「自分の知らないところで情報が分析されていたと思うと信頼できない。辞退率が評価に使われていたなら疑心暗鬼になる」と不安がる。

 リクナビは厚労省の行政指導を受け、「指導を厳粛に受け止め、再発することのないよう経営、従業員一丸となって改善に取り組む」とのコメントを公表した。

 データ技術開発の進展により、こうしたサービスは今後も現れかねない。リクナビの違法行為は当然許されるものではないが、グーグルやアップルなどGAFAと呼ばれる巨大「プラットフォーマー」に対する監視が世界的に強まる中、リクナビの事案はこうした問題意識を根付かせるきっかけになっただろう。

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