10年以上も子会社の役員の使い込みに気付かなかった あまりにずさんな社内体制
ペットから大型動物まで動物薬を北海道全域に販売する「ホクヤク」(本社・札幌)の経理担当取締役兼業務部長が10年以上にわたって1億2600万円の使い込みをしていたことが発覚した。同社の親会社の「イワキ」(東証一部)によれば、内部管理体制強化のためグループ各社の資金管理一元化を進めている最中に、子会社のホクヤクで実際の預金残高が帳簿上の預金残高より1億2600万円少なかったことが発覚。調べたところ、経理担当の取締役が10年以上にわたって預金口座から現金を引き出して使い込んでいたことが明らかになったという。
使い込みは毎年1000万円前後で、もっぱらパチンコや消費者金融の借金返済に流用したと答えているそうだ。イワキは海外子会社を除く国内各子会社で総勘定元帳の預金残高と実際の預金残高が一致するか一斉に調査したが、ホクヤク以外には不正はなかったといい、「販売する医薬品、医療機器などの製品の品質には影響はない」と強調している。
パチンコなどに年1000万円使う
不正行為が見つかったのは昨年11月11日。イワキはグループ各社の資金管理一元化を今期(2016年11月期)からスタートさせる計画で、その準備としてホクヤクの預金残高を確認したら、銀行口座の残高と総勘定元帳の残高が一致しなかったことから経理担当役員の使い込みが分かったという。 同社は発覚時の昨期15年11月期)から6期さかのぼって毎年の使い込み額を発表したが、使い込み額は発覚した15年の800万円が最低で、最大は11年の1400万円だ。毎年1000万円前後の金が銀行預金から引き出され、もっぱらパチンコや消費者金融への返済に費消されていたという。イワキは個人的な使い込みだったと説明している。
消費者金融への返済もパチンコ代の穴埋めだろうが、年間1000万円もよくぞパチンコに使ったものだ。事実なら経理担当役員は毎日、会社ではなく、パチンコ屋に出勤していたような話だ。 イワキは当該経理担当取締役を解任した。「使い込みは単独の行為だったと判断。元役員は経理の責任者で、自ら銀行の預金残高証明書を偽造していたため社内で誰にも気付かれなかった」と説明した。経理責任者が銀行預金残高を偽造したら、不正に気付きにくいだろうが、10年以上もの使い込みに気付かなかったのは、あまりにも社内体制がずさんではなかったか。
動物薬はぼろもうけできるような事業ではないし、ホクヤクはドンブリ勘定の会社でもないはずだ。 役員会でキャッシュフローの状況に気を配るだろうし、あるいは、経理担当者の中に不信感を持つ人もいなかったのだろうか。監査法人が入る会社なら、監査法人が銀行に預金残高を求めるだろうし、求めなくとも金融機関側から預金残高の報告があるから、預金残高証明書を偽造してもすぐに発覚してしまう。規模の小さいホクヤクが外部の監査法人の監査を依頼するのは無理としても、親会社のイワキの監査法人が連結子会社の決算を精査していなかったのだろうか。
グループ会社が多いといっても、銀行に問い合わせれば簡単に預金残高を照合できただろう。 加えて、毎年1000万円前後の使い込み額にも首をかしげたくなる。米国にはFBI(連邦捜査局)捜査官の提唱で生まれた不正検査士という資格があり、日本でも会計、法律に加え、調査手法と犯罪心理学を学んだ不正検査士がいる。弁護士や公認会計士、あるいは、上場企業の監査部の人たちが多く、不正が起こったとき、第三者委員会のメンバーとして不正を調査することも多い。
この不正検査士によれば、社内の使い込みの多くが最初は少額で、それが見逃されると、次第に大胆になり横領額が増えるという。こうした不正は高級車を買ったり服装が変わったり、生活態度が変わったりという日常の生活態度から見抜けるそうだ。 だが、ホクヤクの不正事件では毎年、1000万円前後というほぼ同額の使い込みは巧妙だったともいえるが、本当にパチンコの遊興費だったのか疑問も残る。それにしても10年以上にわたり使い込みが行われていたとは、見方を変えれば、それだけのんびりした社内体制だった上、役員たちもノホホンとしていたというしかない。先にも触れたが、ホクヤクは動物薬が専門で、準大手の医薬品卸、「ほくやく」とは全く関係のない会社である。親会社のイワキもあまり知られていないかもしれないが、東証一部上場の医薬品、医薬品原料、化学薬品、食品原料などを扱う〝商社〟のような存在である。
もっとも、東証一部上場といっても、昔と違って上場基準は緩やかだし、売り上げ(15年11月期)も連結で530億円程度。医薬品関連企業の中でも大手ではない。中小規模だ。もともとは1914年に創業した「薬種問屋岩城市太郎商店」で、1941年に、株式会社「岩城商店」に改組し、今日では医薬品を中心に幅広い事業を展開している。
複数の子会社が製造し、イワキが販売
具体的にイワキグループの事業を挙げれば、医療用と一般用の医薬品事業を中心に、医薬品原料・香粧品原料事業、化成品事業、食品原料・サプリメント事業、その他医療機器販売事業と5部門がある。イワキ本体は原料の購入や販売を担う親会社だ。このイワキの下で、医薬品や化成品を製造するのはグループの子会社だ。 例えば、イワキの主力品であるジェネリック医薬品(後発薬)はもっぱら岩城製薬が製造している。ジェネリック医薬品協会に加盟しているのも岩城製薬で、販売はイワキが担っている。
他の事業も同様だ。医薬品原料や化粧品原料の製造は岩城製薬で販売はイワキとなり、工業用の表面処理薬品など化学薬品はメルテックスと岩城製薬が製造し、イワキが販売、サプリメント原料はボーエン化成が製造し、イワキが販売するといった仕組みだ。 経済記者によれば、何をつくっているのかよく分からない会社の代表例に優秀な釣具のリールから電動ドリルまでつくっているリョービという会社の名前が挙げられるが、イワキも引けを取らないという。それでもイワキグループの主力商品は薬種業からスタートした医薬品関係だ。
自らジェネリックを製造販売する傍ら、製薬メーカーや同業のジェネリックメーカーから医薬品を受託製造したり、医薬品原料の製造をしたりしている。製造、販売しているジェネリック医薬品と一般用医薬品(OTC薬)の中心は抗真菌剤(水虫治療薬)やアトピー性皮膚炎治療向けの外皮用剤だ。 ジェネリック医薬品は医療費抑制のために「2018年にジェネリックのシェアを80%にする」という政府目標の追い風に乗っている。加えて、一般用医薬品は目下、ドラッグストアに集中する中国旅行者の〝爆買い〟で売り上げは有卦に入っている。
医薬品原料もジェネリックメーカーやOTC薬メーカーの盛況で悪くない。化粧品とサプリメントも中国人の爆買いに支えられている上、機能性食品・健康食品ブームに支えられて好調を維持している。5部門のうち4部門で好調だが、実際は製品の卓越さで事業が伸びているというより世間のブームに乗っているような気がしないでもない。 だが、そんな追い風にもかかわらず、急成長しているわけでもない。それは医薬品といっても、新薬ではなく、大手ジェネリックメーカーとともに参入するジェネリック医薬品であり、大手ジェネリックメーカーとの競争もあるからだ。しかも、扱っている医薬品は外用剤が主力にすぎないせいもある。
医薬品製造以外では受託製造や医薬原料製造、化粧品や食品にしても原料製造と安定してはいるが、利益率が高くない事業だからだろう。もちろん、医薬品原料の製造は重要だ。昨今、医薬原料を価格が安い韓国メーカーやインドのメーカーに頼っているだけに、安全性の観点からも国内製造は重要だ。だが、イスラエルのテバのように世界中の医薬原料メーカーを次々に買収し、今日ではテバの原薬供給なしには医薬品をつくれないといわれるほどの規模に達しているわけではない。ジェネリックでは沢井製薬や東和薬品、日医工のような大手を目指しているわけでもない。関連事業に手を広げた結果、商社のようになったともいえる。
利益率の大きい化成品部門が低迷
いや、それどころではない。好調な医薬品事業の裏で、唯一、化成品部門だけが沈滞気味だ。電子部品メーカー、ロームとの契約終了でIT用の表面処理薬品が落ち込んだのに加えて、国内自動車の生産鈍化で自動車メーカー向けの工業薬品、スマートフォン製造の減少からプリント配線板用薬品も落ち込んでいる。そんな状況から使い込み事件が発覚する直前の昨年10月、業績予想を下方修正したばかりだ。売り上げこそ医薬品の好調で予想の530億円を20億円上回ったが、9億円を予想していた営業利益は6億4000万円に、9億5000万円の予想だった経常利益も7億7000万円に下方修正した。 さらに、6億円を見込んでいた純利益はゼロに落ち込んだ。
理由は利益率の大きい化成品部門が大きく落ち込んだからだと説明している。一般的には、三菱ケミカルでも住友化学でも化学品部門の不振を医薬品がカバーして利益を稼ぎ出している。ところが、イワキは逆だ。化成品事業の方が利幅は大きいという。医薬品はもちろん、食品もサプリメントも利益が薄い原薬や製造受託が多い結果だ。そんな状態の中で、ホクヤクで起こった1億2600万円の使い込みの穴は大きい。案の定、1月の速報では15年11月期の最終を1億4000万円の赤字に再度下方修正した。 「医薬品関連の商社」といわれ、分かりにくいグループ組織のまま選択と集中が遅れたままだった結果といえる。
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