6月21日に閣議決定された経済財政運営の指針「骨太の方針」は、10月に消費税率を8%から10%に引き上げることこそ明記したものの、社会保障に関しては迫る参院選をにらみ「負担増隠し」に徹した。第2次以降の安倍晋三政権下で7回目の策定。国民に痛みを求めるのが定番だった小泉純一郎政権時代と比べ、「骨太の骨抜き化が著しい」(厚生労働省幹部)のが実情だ。
来年度の骨太方針で給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめる——。骨太2019は負担増の議論を来年度に先送りすると宣言している。「本格的な検討はこれからだが、給付減か負担増かという単純な議論ではなく、両者を極力抑えた上で前向きな政策体系を探っていきたい」。21日の経済財政諮問会議後、記者団から負担増の先送りについて問われた茂木敏充・経済再生担当相は、質問をこうかわした。
骨太2019では、「少子化対策や社会保障に対する安定的な財源を確保する」として消費増税を明記した。既に安倍政権は2度、消費増税を延期している。3度目となれば「アベノミクスは失敗」と野党から喧伝される上、教育無償化や10月にスタートする、低年金の人に最高で月5000円を支給する制度の財源が確保できなくなる。首相は周辺に「この制度は必ずやりたい」と伝えており、厚労省年金局の幹部は「増税をしないことの有利、不利を総合的に判断されたと思う」と話す。
ただし、骨太は米中貿易戦争の激化なども想定し、景気動向次第で「機動的なマクロ経済政策を躊躇なく実行する」と逃げも打っている。
「人生100年時代への対応」「支える側と支えられる側のリバランス」。これらが骨太2019の社会保障に関するキーワード。「全世代型社会保障」を掲げる安倍政権の志向に沿った文言だ。ただ、健康寿命の延伸や、高齢者にも働いてもらうこと、年金や医療など社会保障の支え手を広げることの利点を強調するばかりで、国民に「痛み」を感じさせる政策は封印された。野党が選挙の争点化を狙う「老後の2000万円不足問題」も意識し、素案段階ではあった「私的年金の活用促進」に関する記述がバッサリ削られた。
骨太は01年、小泉政権が導入した。毎年、社会保障の伸びを2200億円抑える大方針に沿い、激論の末に賛否の割れる抑制策が盛り込まれた。厚労省幹部は「当時は予算案づくりに七転八倒したものだが……」と複雑な表情だ。
それでも、団塊の世代(47〜49年生まれ)が全員75歳以上となる「2025年問題」を控え、参院選後には負担増の議論を避けて通れない。75歳以上の医療費の窓口負担割合(原則1割)を2割に引き上げる案や、高額薬の登場を踏まえ、公的医療保険で賄う範囲を縮小する案などが俎上に上る。厚労省はいずれも21年の通常国会に法案として提出する意向だ。しかし、衆参同日選を選ばなかった首相は今後、衆院の解散時期を慎重に探ることになる。「成長重視」の現政権が難題に切り込む保障はない。
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