退役軍人病院の考え方
米国において退役軍人は重要な存在である。退役軍人省(United States Department of Veterans Affairs、略称:VA)は、連邦政府の官庁で退役軍人に関わる行政を所掌している。本省は国防総省に次いで連邦政府で2番目の規模を有している。
2009年度は約876億ドルの予算が与えられ、約28万人の職員を雇用し数百の退役軍人用医療施設、診療所及び給付事務所を有し、そして退役軍人とその家族及び遺族に対して退役軍人給付プログラムを管理する責任を負う。提供される福利厚生には障害補償、年金、教育、住宅ローン、職業リハビリテーション、遺族給付、医療給付及び埋葬給付が含まれる(Wikipedia)。
退役軍人病院は退役軍人省の中の退役軍人保健局によって管轄される。全米中に約1100の外来クリニックと、入院施設も備えた約170の医療センターが存在し、900万人以上の退役軍人(全軍人の約4割)がこの医療システムに加入して、無料あるいは廉価な医療を受けている。
オーランドの退役軍人病院
Orlando VA (Veterans Affairs) Medical Center at Lake Nona(退役軍人メディカルセンター:オーランド、レイクノナ) は2015 年2月24 日にオープンした米国退役軍人病院である。暖かく高齢者に住みやすいエリアとして定評がある中央フロリダには約11万人の退役軍人がいるが、VA Sunshine Healthcare Network が持つ7つのメディカルセンターのうちの1つである。
キャンパスはオーランド国際空港に近いLake Nona Medical City(650 エーカー)に位置し、そのうちVA Medical Center は65 エーカーを占める。建設費は6億ドルである。写真①にあるように病院らしくない正面玄関である。
134 床の急性期病院で、様々な専門診療科、特に軍人特有の専門診療科、例えばPTSD(心的外傷後ストレス障害)のメンタルケアといったプログラムも充実しており、高度診断サービスや外来、その他サポート部門からなる。もちろん規模があまり大きくないのでここで対応できない場合には、同じLake Nona Medical City内にある、大学病院などに搬送するが、その場合でも退役軍人は原則無料で診察を受けることができる。
このエリアでは、通常の急性期医療以外に、スキルドナーシングケア、ホスピスケア、認知症ケア、レスパイトケア、脊椎損傷ケアが提供されている。
同じ敷地内にあるCommunity Living Center では60 床のリハビリ住居プログラムが展開されている。ここでは、急性期病床であるVA Medical Centerを退院した後でのリハビリを行っている。また、緩和ケアも行っており、安全で家庭環境に近い雰囲気で終末期退役軍人患者の尊厳を尊重しながら、できるだけ心地よくQOL(生活の質)を維持しながら過ごせるような施設とサービスを提供している(写真②)。
メンタルヘルスリハビリ住居治療プログラム施設は60床の施設。メンタルヘルス、アルコール依存症、ホームレス、教育など幅広くサービスが提供されている。写真③に示すのは、翌日に行われるという絵画展の準備である。ここでは病気でない退役軍人も集まるという。
この施設を案内してくれたのは、「アンクルトムの小屋」に出てきそうな退役軍人の黒人の方であった。自らが膝を悪くしており手術を何回もしたと言うが、明るくユーモアを交えながら病院を案内してくれたことが印象的であった。写真④では患者の登録方法を教えてくれている。ここで退役軍人が登録を行うと、全米全ての退役軍人病院でデータがMy HealtheVetで共有化される。
電子カルテ(写真⑤)
筆者の記憶では、退役軍人病院は全米でも最大級の病院チェーンであるため、データの共有化や電子カルテの導入が米国でも早い時期に行われ、2000年代には日本からの視察ツアーも多く見られた記憶がある。
しかし、写真④に示した登録機器が旧式であることからも分かるように、2019年時点では最先端とは言い難くなってきている。そのために、病院グループとしては、電子カルテの刷新を図り、旧来は自家製であった電子カルテを外部の民間電子カルテ会社に外注する予定であるという。ちなみに情報共有については、My HealtheVetをCMS(メディケア・メディケイドサービスセンター)のBlue Button(個人が自分に関係する機械可読なPHR〈医療・健康関係のデータ〉をダウンロードできるボタン)で活用するという。
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