「福音」にはまだ早い
がんゲノム医療が保険診療へ
患者のがん組織などの遺伝子を調べて最適な治療薬を選ぶ「がんゲノム医療」が保険診療の対象となった。100種類以上の遺伝子を一度に調べることができ、従来は自由診療で数十万円の自己負担だった検査を、保険を使って数万円で受けられる。患者にとって福音となりそうなニュースだが、恩恵を受けられる患者は相当絞られる。
国内では年間約100万人が新たにがんと診断されるが、保険診療としてゲノム検査を受けられる人は約1万人に留まるとされる。標準治療を受けた後でないと受けられないなどのいくつかの条件があるからだ。さらに、遺伝子の異常が明らかになったとしても、効果的な薬剤が見つかるのは検査を受けた10人に1人程度と試算されている。患者の大多数が受けられるようになるには、まだ高いハードルがあるのだ。
にもかかわらず、保険適用が認められたのには理由がある。全国紙の医療部記者は「検査で集めた患者の情報を使ってがんの薬剤効果を確かめるなど、創薬が進むことが期待される」と解説する。公的保険を適用しない自由診療では、患者のデータを集めるのは難しい。保険診療は新たな治療薬開発の地ならしの側面もあるという。
ゲノム医療は今後のがん治療の中心を担うと見込まれるが、「オプジーボ」で話題となったとおり、治療薬は高額だ。保険適用の在り方を議論し、薬も保険も、幅広く「恩恵」を受けられる手立てを考えるべきだろう。
浜松医大裁判で示された
「応召義務」の画期的判断
中国で腎移植を受けた患者の国内での継続治療を拒否されたのは不法行為、または債務不履行に当たるとして、患者側が浜松医科大を訴えた裁判で、東京高裁が5月、判決を出した。「応召義務」の要件を示し、今回の事例では応召義務違反は成り立たないと判断。原告側が上告したため判決は確定していないが、応召義務について裁判所が見解を示したことに大きな意義がある。
「裁判は、渡航移植後に東京都内の病院の紹介状を持って浜松医科大病院を受診した患者が、臓器売買の絡むような移植をした患者の診療は控えるとする院内の申し合わせによって診療を拒否されたとして病院を訴えたもの。1審の静岡地裁は、問診や検査をしていたことから応召義務違反でないと判断し、病院側が勝訴した」(全国紙記者)。
高裁で争点となったのは、医師法19条「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には正当な事由がなければ拒んではならない(いわゆる応召義務)」の「正当な事由」についてだ。1955年の厚生省(当時)通知では、正当な理由とは「医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られる」とされている。
高裁は、応召義務は①治療の必要性②他の医療機関による診療可能性③診療を拒否した理由の正当性—の総合判断によって判断されると要件を挙げた。その上で、患者には緊急の診療を行う必要がある事情は存在せず(①)、他の医療機関で診療を受けることも可能で(②)、移植ツーリズムを禁止するイスタンブール宣言に従い海外渡航移植ビジネスに加担する恐れがある患者の診療を控えることとした病院の申し合わせには正当な理由がある(③)として、応召義務違反に当たらないと判断したのである。
医師の働き方改革を巡っても議論となっている「応召義務」だが、診療を拒める「正当な理由」を示した今回の画期的な判決は医療現場に大きな影響を与えそうだ。
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