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未来の会

進化するAIを有効活用して「医療の価値」を向上

進化するAIを有効活用して「医療の価値」を向上
医師と患者が共に目指す最適な医療とは?

横浜市で4月に開かれた「第78回日本医学放射線学会総会」のシンポジウムとして、「Value-based Imaging:AI時代を見据えて、画像診断の価値を考える」が開かれた。

 まず、司会者でもある隈丸加奈子氏(順天堂大学医学部放射線診断学講座准教授)が「医療における価値」について話した。「欧米では10年以上前から、Value-based MedicineまたはValue-based Healthcareという言葉が使われるようになりました。一方、日本での認知度はまだ低いのが実情です」。

 医療における価値は「患者の健康効果/費用」で表すことができる。価値を高めるためには分子を大きくするか、分母を小さくするか、両方の取り組みを進める必要がある。分母の費用は「1件ごとの費用ではなく、疾患ケアサイクルの中で改善を達成するための費用。こうした大きな枠組みで考える必要があります」と隈丸氏。放射線医療の現場では、読影だけでなく様々な領域でAI(人工知能)への期待が高まっている。分子(健康効果)を増やし、分母(費用)を減らして全体の価値を高める上で、AIの潜在力は大きい。

 北澤京子氏(医療ジャーナリスト、京都薬科大学客員教授)は患者の視点から画像診断の価値を考察、過剰診断などの問題について話した。

 「医師はプロ意識を持って患者の病気を治したいと思っています。一方の患者には見逃しや手遅れの恐怖があります。双方の事情が、検査を含む医療の前倒しを促します」と北澤氏。早期治療が大きな価値を生むケースもあるが、逆に、過剰診断に繋がることもある。

 やっかいなのは、過剰検査の場合であっても当事者はメリットを感じることだ。異常なしなら患者は「良かった」と思う。異常があったとしても、患者は「早期に見つかって良かった」と感じるだろう。いずれの場合も患者が検査にポジティブな感情を抱くのであれば、医師側には「過剰を見直そう」という意識は働きにくい。こうして、必要以上の画像診断が行われている可能性が高まる。

 今、過剰診断に対する問題意識が高まりつつあり、「Choosing Wisely」という国際的な活動が注目されている。医療の提供側と患者がエビデンスに基づき、対話を通じて“賢明な選択”を目指している。

医療被曝、医療の破壊的イノベーション

 稲木杏吏氏(金沢大学附属病院核医学診療科助教)はまず、診療用放射線の安全体制づくりについて説明した。

 「背景にあるのは、日本における医療被曝のレベルの高さです。日本は世界平均を大きく上回り、米国に次ぐ高さといわれます。改善に向けたキーワードが正当化と最適化です。ベネフィットがリスクを上回らなければ、医療被曝は正当化できません。また、最適な線量で実施する必要があります」

 こうした考え方をベースに、法改正も進められている。医療機関向けのガイドラインも、近く公表されるのではないかと稲木氏は期待している。

 次に、医療機器の効率的な利用について。日本におけるCTやMRIの設置台数の多さがしばしば指摘される。例えば、1000人当たりのCT検査数は世界一多いが、1台当たりの検査数は先進国中最低レベル。台数は非常に多いのだが、それぞれの稼働率は低いという状態だ。

 「地域によっては一種の“共喰い” 現象が起きており、共倒れになりかねないと心配されています。財政の観点からも課題が指摘されています。そこで、地域ごとに共同利用計画をつくり、検査数に見合った台数にするという方向での議論が行われています」(稲木氏)

 大きくなり過ぎた分母(機器の台数)を減らし、医療の価値を高めようとの考え方だ。そこには、機器の状況を見える化して稼働の最適化を進めようという狙いも込められている。

 医師として循環器内科などに従事し、株式会社ミナケア(東京)を創業した代表取締役の山本雄士氏は医療とイノベーションなどをテーマにスピーチ。フィルム型のカメラがデジカメに駆逐され、さらにスマホに置き換わりつつある状況に触れた上で、「同じような破壊的イノベーションは、医療を含む他産業でも起こり得る」と話す。

 「イノベーションの一般的なトレンドとして、サービス提供の場の移動があります。『専門家のいる場に顧客を集める』という形態から、『顧客のいる場所でサービスを提供する』という形態へのシフトです。このような流れは、医療においても起こる可能性があります」

 かつては高度な医療機関でしか受けられなかった医療サービスが、近所の開業医でも可能になったケースは多い。このトレンドを延長すると、自宅での診療に繋がるだろう。身体埋め込み型の医療デバイスを使ってクラウドで健康状態を管理するといったサービスも、技術的には可能なレベルにある。

 山本氏は潜在患者の問題も指摘した。

 「糖尿病の場合、まともに通院している患者は3分の1程度と見られます。残りの3分の1はたまに来院する患者で、3分の1は全く病院に来ない患者。私達は通院する患者だけを見て、それが全ての患者であるかのように誤解しているかもしれません。このような見落としをいかになくすか、通院しない潜在的な患者にいかに目を向けるか。日本の医療にとって重要なテーマだと思います」

医療AIはどこまで進化するか

 山田惠氏(京都府立医科大学放射線医学教室教授)は、医療におけるAI活用の進展を中心に語った。ただし、そこには限界もあるという。

 「様々な医療用AIツールが登場していますが、それらは全て1つのタスクに対応しています。例えば、精神科に特化した電子カルテ分析ツールといったものです。では、マルチタスクのAI、つまりAGI(Artificial General Intelligence)は可能か。私達は過去3年ほど、いくつかのチームで小規模なAIの研究を続けましたが、現時点ではAGIの実現は極めて困難といわざるを得ません」

 そこには、いくつかの理由があるという。まず、正しい教師データの提供が難しいこと。    

 「この画像はネコか否か」という問いには正しい教師データが存在するが、医療の場合、診断そのものの不確実性もあってこうしたデータを用意することは難しい。また、ビッグデータと呼べるものをそろえるのも容易ではない。例えば、電子カルテには多くのデータが記録されているが、それらは医師の思考プロセスの一部をデータ化したものにすぎない。そして、患者とのノンバーバル(非言語)なやり取り、直観といったものをデータ化するのも難しい。こうした課題をいかに克服するか。山田氏は今後もAGIに接近するための研究を続けていきたいと考えている。

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