輸出頓挫の一方で国内の再稼働は「どんどんやるべき」
財界とは社会性や責任意識が欠如した、経済合理性すらわきまえない目先のエゴだけの集団なのだろうか——。4月に日本経済団体連合会(経団連)が発表した「日本を支える電力システムを再構築する」なる提言書の内容が報道されて、そう思った国民は少なくなかったに違いない。
この文書では冒頭、「国際的に地球温暖化問題への関心が高まる中、東日本大震災以降、①火力発電依存度は8割を超え、その打開策としての②再生可能エネルギーの拡大も、③安全性が確認された原子力発電所の再稼働も難しい状況です」と指摘した。その上で、「原子力発電については、(中略)安全性確保と国民理解を大前提に、既設発電所の再稼働やリプレース・新増設を真剣に推進しなければなりません」と主張する。
福島事故が原因・責任不明でも推進
だが、8年前の史上空前の大惨事となった福島第一原発事故の原因は未だ不明であって、それが解明されない限り「安全性が確認された」かどうかの議論は不毛であるはずだ。
何よりも、経団連元副会長の勝俣恒久ら東京電力の元経営陣3人は、この事故の責任を問われ業務上過失致死傷罪で強制起訴され、禁錮5年が求刑されている。既に東京地裁での公判は結審し、今年9月に判決が出る予定だ。これだけの大事故を起こした会社役員の経営者責任がまだ不確定なうちに、電力各社を有力加盟企業とする当の経営者の団体が原発を「真剣に推進しなければなりません」などというのは、いくら何でも常軌を逸してはいまいか。
勝俣ら3人は、大事故の直接的引き金となった巨大津波は予測できなかったとして「無罪」を主張している。しかしだからといって、東電のみならず新日鉄や日立、東芝、三菱重工業といった「国策」としての原発建設に群がった有力企業も加盟する経団連が、事故の原因解明どころか処理もさほど進んでいないにもかかわらず、最低限度の社会的責任意識すら持ち合わせていない風なのは、許容できることなのか。
しかも、日立製作所会長で経団連会長の中西宏明は1月15日の記者会見で、停止中の原子力発電所に関し「再稼働はどんどんやるべきだ」と述べている。だが、「原発がもはやビジネスとして成り立たない」というのは国際常識になりつつある事実を、中西自身が一番よく知っているはずなのだ。日立自身が鳴り物入りで乗り出した英国での原発建設事業が、約3000億円もの損失を計上して1月に撤退に追い込まれたのは記憶に新しいからだ。
日立は当初、2012年に買収した英電力会社のホライズン・ニュークリア・パワーを使い、ウェールズのアングルシー島に沸騰水型軽水炉を2基建設する予定だった。ところが、当初1兆円とされていた建設費が、安全確保の措置が重なって3兆円までに高騰。ついには、「民間の投資対象としてはもう限界だ」と、悲鳴を上げるに至った。しかしながらなぜ中西は、原発が外国でビジネスとしては「限界」となったと告白した後のわずか3カ月後に、今度は日本で景気良く「どんどん」などと言い出したのだろうか。
元々こうした原発の海外輸出は、首相の安倍晋三が原発事故などなかったかのようにアベノミクスの「成長戦略」の柱として位置づけられた「インフラシステム輸出戦略」の目玉として、外国への売り込みに自ら乗り出すなど力を入れていたもの。だが、現状では英国を筆頭に完全失敗に終わっている。トルコでは、三菱重工業が黒海沿岸に4基の中型原発を建設する計画だったが、やはり当初は2・1兆円と見込んでいた総事業費が5兆円に高騰した。その他、日本政府が原発輸出を計画していたベトナムやリトアニア、台湾でも頓挫し、今や輸出案件がゼロだ。
成長戦略の原発は世界では衰退産業
既に、全世界規模で見ると、発電電力量に占める原発の比率は、ピーク時の17%から、17年には過去最低の10%にまで低下。一方で、風力や太陽光といった自然エネルギーの比率は2倍以上の24%に達しており、今後さらに上昇して40年には9%対41%にまでに差が開くと見込まれている。理由は、福島の事故で安全対策の強化が求められた原発は発電コストが増大し、逆に自然エネルギーのコストは劇的に減少して前者の約半分になっているためだ。また、国際エネルギー機関(IEA)の調べでは、17年の全世界の原発新設投資は、前年のわずか3割でしかない。
既に原発は衰退産業となっているのに、逆に日本では「成長戦略」とされたのは、いかにも安倍らしいお粗末ぶりではないか。しかも、そうした国際的なエネルギー事情の変化は、日本では相も変わらず無縁らしい。18年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」によると、原発の電源比率を30年度に20〜22%にするのだという。だが、現在日本で稼働中の原発は5原発9基で、電源比率では数%に留まる。それでも格別の電力の逼迫は起きていないが、引き続き再処理・核燃料サイクルは維持し、原発輸出は「成長戦略」として推進するとされている。
もし、こうした「基本計画」を本気で推進しようとすれば、停止している原発の再稼働や新規原発の建設で30基ほどを稼働させなければならない。日本国内だけが、原発については「民間の投資対象としてはもう限界だ」という判断が除外されるというのだろうか。
それでも、中西以下、経団連が前述の「日本を支える電力システムを再構築する」を発表したのは、こうした「基本計画」がまだ健在だと判断したからだろう。そこでは、国に対して「原子力の継続的活用のメッセージ」の発信や再稼働の取り組み強化を求めているが、「国策」による税金の庇護で、原発業者の儲けを確保しろとねだっているに等しい。
外国ではとうに経済合理性からビジネスにはなり難くなったのに、国内では依然「親方日の丸」意識が抜けないのだ。しかも原子力規制委員会に対し、原則40年、例外として1回に限り最長20年の延長を認めるとした原発の運転期間を、米国の例を引き合いに何と80年間まで暗に認めるよう迫っている。老朽化した原発の危険性など頭の片隅にもなさそうだが、これが過小と批判されながらも廃炉・除染・賠償などで21・5兆円(政府試算)の損害費用がかかると試算された大事故を起こした責任企業が集まる団体の言うことか。
そんな寝言にふける暇があったら、2200万立方㍍という気の遠くなるような福島の大量の除染廃棄物の処理や、実態すら不明な事故跡地の1〜3号機の原子炉底部に溜まった燃料デブリの搬出の方法について「提言」した方がまだましだろう。
業者としての目先の利害しか頭になく、結局は自然エネルギーが主流になりつつある世界の趨勢を顧みない経団連がやっていることは、むしろ日本経済に対する毀損行為に思えてくる。(敬称略)
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