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未来の会

第72回「世界企業のトップ人材」が武田に残るのか

第72回「世界企業のトップ人材」が武田に残るのか
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 また武田薬品が、いや武田会長の長谷川閑史が、お得意の「グローバル経営」とやらを見せつけた。今春から、世界7カ国から女性11人、男性10人の30歳前後の若手計21人(うち日本人は8人)を選抜し、「アクセラレーター・プログラム」と称する社内プログラムにより、将来の社長候補者を「世界同一基準」で養成するというのだ。

 日本人が半分にも満たない枠を設定し、そこから社長を選抜するというのだから、外資でもない日本の上場企業にとっては異例極まる「プログラム」だろうが、何のことはない。例によってカタカナ用語を使おうが、どう見ても長谷川が永久院政を敷く布石だろう。しかしいくら「プログラム」で選抜された社員だろうが、この種の「グローバル経営」では、高給を求めて「グローバル」に各社を渡り歩くのが常というものだ。

外国人CFOが2年で転職する醜態

  この「プログラム」の参加者は、「世界企業のトップになるには、若いときから他国の文化や仕事の流儀に触れる必要がある」(クリストフ・ウェバー社長)として、5年間に2カ国以上で業務を経験させられるという。だが、もし外人社員が本当に「世界企業のトップ」になれるような人材に育成されたなら、あっという間に他社に引き抜かれるのが関の山だ。何が悲しくて、世界の製薬業界でたかだかランキング16位程度の極東の会社に、骨を埋めねばならないのだろう。

 第一、そんなことは2015年の株主総会2日前に、再任予定だった武田初のCFO(財務最高責任者)のフランソワ・ロジェが在職2年足らずで突然辞任し、食品大手のネスレに転職するという、前代未聞の醜態をさらした武田にとって、わかりきった事実なのではないか。それとも「グローバル経営」より、長谷川の権力維持策が優先されたということなのか。

 一方で、武田にとって有望な「グローバル」の話題が、さほど聞こえてくるわけではない。5月には、欧州の新薬認可に影響力がある欧州医薬品評価委員会が、武田の血液がん薬「ニンラーロ」(一般名・イキサゾミブ)の販売承認を、異例にも、推奨しないと武田側に通知した。米国では昨秋、米食品医薬品局(FDA)が通常より短い審査期間で販売承認を出したが、新薬に対する審査が厳しい傾向がある欧州では、既存薬と比べて患者に大きな恩恵をもたらすと判断されない限り、新薬に対する審査が厳しい。

 武田のウェバー社長は、成長ドライバーとして①消化器系疾患②オンコロジー③CNS系疾患④新興国事業——の4点を挙げているが、こんな調子では不安は拭い切れまい。

 さらに、カナダの特殊医薬品メーカー、バリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナルは今年5月、武田から打診されていた買収を拒否。武田の思惑としては、昨年、カナダのサリックス・ファーマシューティカルズを買収し、消化器疾患の分野の医薬品ポートフォリオを手に入れていたバリアントを手中に収めることで、腫瘍と消化器疾患の治療薬で優位に立とうとしていたのだが、夢と消えた。現在は、交渉も行なわれていない模様だ。

 バリアントは薬価設定の慣行などをめぐり調査対象となり、債務負担をめぐる疑惑に直面するなどして株価が90%下落し、業績立て直しに苦戦しているという。それでも武田側の買収を拒否したのは、何かよほどの武田のマイナス材料でも見つけたからなのだろうか。

切り札でなくなった「グローバル経営」

 いずれにせよ、武田のM&A(企業の合併・買収)熱は今後とも持続するだろうが、気になるのはそこで計上する「のれん」だ。会社を買収した時点での計画とは異なり、その会社の収益を生みだす力が小さくなれば、貸借対照表に反映されているのれんの価値は見直される。

 武田のように大型買収に踏み切った企業は、自己資本に対し、相対的にのれんの規模が大きい。武田は自己資本に対するのれんの比率が39・5%と、相当高い水準だ。

 しかも、のれんの残高は8363億円(『日本経済新聞』16年1月23日付)と、子会社のウェスチングハウス買収の際に計上したのれん代が重くのしかかっている東芝より1800億円以上も多い。常に減損処理を迫られるリスクを負うことになり、これだけ見ても、「グローバル経営」が武田にとっての万能の切り札ではないといえる。

 それどころか、長谷川が経営陣の「脱日本化」に異様に固執する一方で、国内市場の業績回復は、依然先が見えてこない現実がある。

 武田は5月10日、16年3月期(15年度)決算を発表したが、国内医療用医薬品売上は5417億円、前期比3・5%減だった。これで、4年連続のマイナス成長となる。稼ぎ頭だった大型品の特許切れ影響を新薬群で吸収できず、長期収載品(先発医薬品)の市場は無慈悲にこれからも縮小の度合いを強めていく中、これに対処するウェバー社長の戦略は、入社2年半を過ぎた現在もいまだ不明だ。

 そのウェバー社長は、同日の東京本社での決算会見で、奇妙な発言をしている。「武田がリーディングカンパニーとして日本で存在していくことにコミットしているが、リーディングカンパニーとは売上規模だけではない。いろいろな要素がある」というのだ。

 何のことか。武田は4月、長期収載品30成分を、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の世界的リーダーであるテバ社と、テバ社とのジェネリックと長期収載品を扱う合弁事業に移管したが、そこでの製品の売上が、そのまま武田薬品の国内医療用薬売上の目減りにつながる。その結果、16年度は、両社への移管製品の売上がそのまま武田薬品の国内医療用薬売上の減少となり、結果として国内売上トップの座を他社に明け渡す可能性が高い。

 ウェバー社長はここに至って、「リーディングカンパニーの指標」として「売上規模」だけではなく、顧客満足度や研究内容、パートナーシップ、時価総額を挙げ始めた。しかし、武田をして武田たらしめている最大の存在価値は、「国内売上トップ」しかないはずだ。その存在価値を死守する上で、登場した「アクセラレーター・プログラム」とやらが何かの力になるのか。その回答が出るころには、製薬業界の力関係が変化しているのは間違いあるまい。

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