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統計不正問題を「炎上」させる定塚官房長

統計不正問題を「炎上」させる定塚官房長

 通常国会の予算委員会で焦点となったのは、厚生労働省の統計不正問題だった。本来、国会での「炎上」を未然に防ぐのが危機管理部門のトップである官房長の役目だが、定塚由美子・官房長(1984年、旧労働省)の場合は第三者性が求められる特別監察委員会の調査に同席するなど、火に油を注いでしまった格好となった。夏の幹部人事では村木厚子・元事務次官(78年、旧労働省)以来の女性事務次官と期待されていたが、その芽は急速に萎んでいる。

 一連の問題で野党は定塚氏に予算委への出席を求めたため、国会で答弁する定塚氏の姿をテレビで見た読者も多いことだろう。同時に、統計不正問題を調査する特別監察委員長の樋口美雄・労働政策研究・研修機構(JILPT)理事長も出席したが、定塚氏は「樋口委員長はJILPTの委員長として来ている。(特別監察)委員会関係は私に聞いていただきたい」と答弁し、野党の不興を買ったのは記憶に新しい。

 定塚氏は、桜蔭高校、東京大学法学部を卒業し、旧労働省に入省。内閣府男女共同参画局推進課長や厚労省雇用均等・児童家庭局総務課長などを経て、社会・援護局長に就任。昨年7月からは危機管理や人事を司る官房長に抜擢された。夫は札幌地裁所長、息子は朝日新聞記者と絵に描いたようなエリート一家。普段はエリートを鼻に掛けた様子もなく、その人柄についてある労働官僚は「極めて温厚。悪く言えばお嬢様気質」と明かす。桜蔭出身者を集めた飲み会を定期的に開くなど、「自分と同じように子育てしながら働く女性官僚に対する面倒見はいい」(ある女性官僚)という話もある。

 ただ、仕事面の評判は必ずしも高いわけではなかった。労働のエリート男性官僚が歩む労働基準局や職業安定局にはあまり配属されなかった。このため、労使対立が激しく、政策立案能力以外にも調整能力が問われる労働基準法改正や労働契約法改正などを経験しなかった。統計不正問題発覚後も対応が遅れ、中堅・若手職員からは「後手後手に回っている。官房長には向いていない」と陰口を叩かれる始末で、他省庁の幹部からも「定塚氏は一体、何をやっているのか」と呆れる声も。

 危機管理能力が乏しい定塚氏を官房長に抜擢したのは、女性登用に積極的だった加藤勝信・前厚労相だった。昨年7月の幹部人事の選考に際し、事務方トップだった蒲原基道・前事務次官(82年、旧厚生省)は、定塚氏と同期に当たる吉田学・医政局長(84年、旧厚生省)を官房長に推した。旧民主党政権時代に野田佳彦・元首相の事務秘書官を務め、細部に気が回る吉田氏は官房長に打ってつけと思われたが、加藤氏は「蒲原案」を採用せず、定塚氏の起用にこだわった。加藤氏は自らの秘書官にも女性官僚を必ず登用するなど「女性活躍」には前向きだからだ。ある大手紙記者も「加藤氏は夏の幹部人事前から女性登用をしっかりやると話していた」と明かす。

 統計不正問題で図らずも定塚氏の「不適材不適所」が明らかになってしまった。旧労働省出身者で「正当」な事務次官候補は、85年入省の坂口卓・労働基準局長まで待たねばならず、定塚氏の「失点」は労働系の人事を考える上で大きな影響を与えるのは間違いない。

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