厚生労働省の関係審議会は2月、免疫細胞を使って若年性の白血病を治療する新製剤「キムリア」の製造販売を了承した。キムリアは治療が困難な特定の血液がんへの高い効果が期待される一方、米国では1回の投与で約5200万円かかるとあって、日本でも高額な費用が懸念されている。近く正式承認する厚労省は今後、承認が相次ぐ高額バイオ薬をどこまで公的保険で賄っていくのか、真剣に向き合うことを迫られる。
キムリアはスイス製薬大手「ノバルティス」の日本法人「ノバルティスファーマ」が申請していた、「CAR‒T細胞(キメラ抗原受容体T細胞)」を使うがん免疫治療製剤だ。患者から採取した免疫細胞(T細胞)に遺伝子改変を加えた上で、点滴を通じて体内に戻し、がん細胞を攻撃させる。臨床試験段階では、難治性の「B細胞性急性リンパ芽球性白血病患者」(ALL)の約8割でがん細胞がなくなるなどの効果が確認されている。欧州でも昨年8月に承認済みだ。
ただし、高熱や嘔吐といった副作用が生じることもある。ALLの臨床試験では、因果関係が否定できない死亡例が2件あった。
免疫療法は、手術、化学療法(抗がん剤)、放射線に次ぐがんの「第4の治療」として脚光を浴びている。だが、懸案は副作用に加え、その高い費用だ。昨年10月9日の財政制度等審議会の分科会で、財務省は「新たな医薬品・医療技術は経済性の評価も踏まえ、保険収載の可否も含めて対応を決める仕組みとすべきだ」と提案している。
キムリアは単価こそ高いものの、投与対象はピーク時でも年約250人とみられている。市場規模は100億〜200億円程度とされ、1000億円を超えたC型肝炎薬「ハーボニー」や「ソバルディ」に比べると、一ケタ低い。厚労省は対象者や使用量が増えた薬の薬価を年4回下げられる制度を導入した他、今年4月からは費用対効果の低い薬を最大15%引き下げる仕組みも採り入れる。このため厚労省は「十分対応できる」(幹部)として、キムリア単体に関してはそれほど問題視していない。
それでも、CAR‒T細胞を使ったがん免疫治療製剤は、第1号のキムリアに続くものが出てくる。日本では、既に米国で承認済みの「イエスカルタ」など、複数薬の臨床試験が進んでいる。イエスカルタの米国での費用は1回約4200万円。CAR‒T細胞療法以外にも高額薬は相次ぐ見通しで、昨年12月に米国で承認された網膜疾患の遺伝子治療薬「ラクスターナ」は、1回の投与に約9700万円かかる。
キムリアに関し、米国では投与から1カ月以内に効果があった場合のみ、製薬企業に費用が支払われる。厚労省は昨秋、社会保障審議会の医療保険部会で高額薬の保険適用についての議論を始めた。「安全で有効な薬は速やかに保険収載を」との意見が主流で、現時点では経済性で保険適用の有無を判断することには否定的だ。高額薬の市場規模の膨脹に備え、厚労省内では「高額薬を保険外併用療法の対象に」「軽症の治療は保険免責に」といった
〝頭の体操〟はされているが、答えは出ていない。
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