医療関係者や厚労族など立場で異なるその評価
自民党の小泉進次郎・衆院議員が昨年10月、自民党の厚生労働部会長に就任して以降、妊婦加算や政府統計の不正処理など世間の耳目を集める問題が相次ぎ、「嵐を呼ぶ男」となっている。メディアへの露出度は高く、存在感は増すばかり。では、部会長としての手腕はどうなのか。その評価は立場によって異なるのが実態のようだ。
ここ数年、厚労省は飲食店などで他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙を巡る問題や、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬のトリプル改定など大きな事案が続いた。
今年は5年に1度の公的年金の財政検証が予定されているくらいで、夏の参院選を前に、政府は世論の批判を招きそうな、社会保障を巡る負担増を伴う政策を封印している。参院選前後には内閣改造が囁やかれており、改造が断行される場合、部会長人事も行われる見通しだ。
つまり、小泉氏の厚労部会長人事はいわば次期部会長が決まるまでの「つなぎ」の意味合いが強く、「出番は少ないだろう」(自民党中堅)と言われていた。
「妊婦加算」凍結で存在感を発揮
ところが、現実はそうではなかった。昨年4月に創設された、妊婦が医療機関を外来で受診した際に請求される「妊婦加算」の凍結を、根本匠・厚労相が発表したのは昨年12月14日。中央社会保険医療協議会(中医協)が決めた診療報酬を凍結するのは異例のことだった。
こうした「力業」を根本氏が発揮できたのは、小泉氏の存在が大きい。前日13日の厚労部会終了後、小泉氏は記者団に「妊婦さんに自己負担を発生させることは容認できないというのが部会の総意だ」と語った。ツイッターをはじめインターネット上で「妊婦税だ」「少子化対策に逆行する」などと妊婦加算への批判が相次いだことを踏まえた対応だった。
これには、その後の中医協で日本医師会の委員が「診療報酬は医療サービスへの対価だ。すべからく妊婦への診療には配慮が必要だ」と反発。自民党の厚労族からは「究極のポピュリズムだ」「ツイッターでつぶやけば政策は変わるのか」などの不満が続出し、しこりが残った。
今でも医療関係者の間では小泉氏について「医療政策が分かっていない」との声が上がる。また、ある族議員は小泉氏が希望して厚労部会長になったことに対して、「厚労族になりたいのではなく、政治家としてのステップアップとして部会長になったんだと思う」と冷ややかにみている。
もっとも、妊婦加算については、その後、考え方を微妙に修正している。医療情報をインターネットで発信している「BuzzFeed Japan Medical」は小泉氏と産婦人科医の宋美玄(ソン・ミヒョン)さんとの対談を企画した。
「妊婦の診療には手間がかかり、普通の人を診る時よりも、医療機関にプラスの報酬があった方がいいということは理解してもらえているのでしょうか」
宋さんがそうぶつけると、小泉氏は「それは当然ですよ。(中略)妊婦さんに丁寧な診療、説明、処方をしている医療機関を評価していくことは大事だと考えています」と答えている。
ただ、本音がどこにあるのかは不透明で、宋さんが「丁寧な診療に対する費用が必要だと合意した上で、妊婦加算は導入されたはずです。しぶしぶ払ってきた人達も、凍結となったら『私達が払ったのは何だったの?』と余計、理解が得られにくくなった」と語ると、小泉氏はこう反論した。
「このまま放置して、『診療報酬改定は2年に1度ですから、次の改定まで全く手は付けません』とする方が、政治に対する不信を招く」
いずれにしても、手柄を急いだ感は否めない。診療報酬はあるべき姿に持っていくための医師に対する誘導策だ。妊婦や患者サイドの思いを反映させる制度ではない。その点をはき違えている印象は否めない。
もっとも、強引な性格かと言えば、そうでもない。小泉氏が謙虚な側面を持ち合わせているのは意外と知られていない。
厚労部会長に就任した際、衆院赤坂宿舎のとある一室で、午後10時から夜中2時まで、橋本岳・前部会長に指南を仰いだ。小泉氏はビール約10缶とおつまみをもってくるという気の遣いようだった。
「どこを回った方がいいのか」「インナー(厚労族の非公式幹部会)とは、どういうものなのか。そこで物事が決まるのか」……。
質問は尽きることがなく、実に熱心だったようだ。深夜の引き継ぎは和やかに進み、こんな遣り取りもあったという。
岳氏は言わずと知れた龍太郎・元首相のご子息。小泉氏が岳氏に「龍太郎首相の時に父(純一郎氏)は厚生相だった。ご縁を感じます」と語ると、岳氏は「それを言うなら、小泉チルドレンと言われた私が本当の小泉チルドレンと一緒にいることの方がご縁を感じる」と応じた。
「統計不正」批判でも厚労省に気配り
さて、妊婦加算を巡る問題に続いて、世間を騒がせているのが、厚労省による「毎月勤労統計」と「賃金構造基本統計」の不適切調査問題だ。世論の動向に敏感な小泉氏とあって、この問題に対する姿勢は厳しい。
2月4日の衆院予算委員会の質疑に立った小泉氏は「厚労省は本当に大丈夫か。厚労省の未来について私はまだ全然見えていない」と強調した。その上で矢継ぎ早に、こう言い放った。
「毎月勤労統計については危機管理上でアウトだ。ガバナンスも欠如している。賃金構造基本統計は組織の隠蔽体質の表れだ」「民間だったら許されないことですよ。法律違反が連発の組織。これがこのまま歩き続けるのか」……。
夏の参院選を前に火の粉を被ることを避けたい自民党は厚労省批判を強めており、その先頭に立っているのが小泉氏だ。ただ、批判するだけで終わらないのが憎いところ。質疑が終わると記者団に「厚労省で働いている全ての人が悪いというわけではない。この機会を自分が働いている職場の改善に繋げたいと強く思っている若手がいるのも事実だ」と語った。
小泉氏は当選4回とはいえ、若干37歳。政治家として、まだまだ成長過程にあるのは間違いない。現段階で評価を下すのは時期尚早だろう。
父親は感性や瞬発力で政権運営をしていた印象が強い。それは世論の反応を楽しんでいるようでもあった。進次郎氏にそこまでの余裕はないにしても、その政治手法は父親譲りと言える。
今後、感性をさらに研ぎ澄まし、複雑な社会保障制度をはじめ、様々な政策を理詰めで語れるようになれば、鬼に金棒だ。
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