暮れも押し迫った昨年12月28日、厚生労働省に激震が走った。「毎月勤労統計」が不正に調査されていることが大手紙の報道で判明し、雇用保険や労災保険などの支給額が約15年にわたって過少給付されていたからだ。
厚労省の対応も後手に回り、通常国会の争点に急浮上。野党は予算委員会で「隠蔽があった」などと猛烈に追及し、省内は混乱に陥っている。今回の統計不正問題は、夏の幹部人事にも大きな影響を与えそうだ。
統計不正問題を事務方トップとして指揮する鈴木俊彦・事務次官(1983年、旧厚生省)は続投の芽が萎んでいる。
ある厚労省幹部は「事務次官に就任した当初は、前任の蒲原基道氏(82年、旧厚生省)のように1年限りではなく、2年コースで社会保障制度改革に取り組むとみられていた」と明かす。
しかし、この問題が発覚すると、旧労働省所管ということもあり動き出しが鈍く、全省的に対応しなかった。官邸幹部からは「当事者意識が薄い」と叱責され、根本匠・厚労相からも不興を買い、「炎上」するきっかけを作った。
この結果、同期の樽見英樹・保険局長(旧厚生省)を鈴木氏の後任に推す声が広がり始めており、労働系トップの宮川晃・厚生労働審議官(83年、旧労働省)とともに、夏の幹部人事では厳しい処遇になりそうだ。
定塚由美子・官房長(84年、旧労働省)も危機管理能力のなさを露呈した。加藤勝信・前厚労相が女性登用の一環で起用したが、省内では当初から「官房長向きではない」(省中堅)との意見が多かった。このため総括審議官に土生栄二氏(86年、旧厚生省)と大臣官房総務課長に間隆一郎氏(90年、旧厚生省)を配置したものの、この問題を中立的な立場で調査する特別監察委員会による職員への聞き取りに、定塚氏や宮川氏が同席していたことが発覚。調査の中立性に疑問符が付くなど自ら傷口を広げている。
さらに、年末に新聞報道がありながら年明けの1月8日まで公表せず、自民党や省内からも「対応が遅い」と批判されている。村木厚子・元事務次官(78年、旧労働省)以来の女性事務次官の誕生を期待する声があったが、その座は遠のいた。
問題の発端となった統計部門は数理職のキャリアと統計配属のノンキャリで構成され、人事が硬直化していた。メンタルヘルスで統計部門に異動する職員も多く、ある職員は「職員の意識も低く、プロ意識に乏しい。こうした土壌が今回の不正の背景にあることは間違いない」と指摘する。
その統計担当の責任者は大西康之・政策統括官(84年、旧労働省)だったが、新たに不正があった「賃金構造基本調査」で問題を報告せずに更迭され、藤澤勝博・政策統括官(84年、旧労働省)が統計担当を兼務する事態になった。
大西氏は内閣法制局参事官や職業安定局次長などを歴任したが、官僚としてキャリアを積む道を絶たれた形になった。あるベテラン職員は「法案作成能力には定評があるが、統計は全く詳しくない。不正は長年にわたっており、大西氏の在籍時にパンドラの箱がたまたま開いただけで本当に不運だ」と同情する。
ある中堅は「クビがまだ足りないかもしれない」と漏らす。この問題で省内の人事は荒れに荒れている。
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