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未来の会

第131回 手探りで行くしかない「医師の働き方改革」

第131回 手探りで行くしかない「医師の働き方改革」

 厚生労働省は勤務医の残業上限時間について、一般労働者の2倍となる年1900〜2000時間とする案を示した。月160時間前後まで容認する内容だが、「理想論を打ち出して地域医療が壊れたら本末転倒」(厚労省幹部)との考えに基づく。ただ、働き方改革どころか、今の過重労働にお墨付きを与えるかのような提案に、労働者側は強く反発している。

 政府は4月施行の働き方改革関連法で、一般労働者の残業上限時間を年960時間(休日出勤含む)とすることを決めたものの、勤務医については規制対象から外した。勤務医の1割に相当する約2万人は月160時間以上の残業をこなしており、いきなり一般労働者と同じ水準で規制すれば医師不足を加速させ、地域医療が崩壊しかねないためだ。このため、勤務医に関しては別途上限を定め、2024年度から適用することになっている。

 厚労省は勤務医を、①一般的な勤務医②地域医療の核となる医療機関の勤務医③専門性や技能などを高めようとする若手医師——に3分類し、残業の上限時間を検討してきた。そして、1月11日の有識者検討会で提示したのが、①を一般労働者と同じ年960時間とする一方、②は年1900〜2000時間とする案。35年度までの暫定措置で、36年度以降は年960時間で統一する他、次の始業までの休み時間「勤務間インターバル」を9時間以上とするなどの規制も同時に提案した。ただ③の若手医師に関しては、「検討中」として一切案を示せなかった。

 厚労省が日本医師会(日医)や自民党厚労族に押し切られたことが大きい。日医の主力会員は開業医や病院経営者だ。勤務医の労働時間規制が強まると、医師確保が困難となり、経営を圧迫する。首都圏の病院理事長は「代わりの医師などいない。上限規制を強めるなら、病院を閉じるしかない」と訴える。

 しかし、11日の有識者会議では、自治労の森本正宏・総合労働局長が「一般の労働者2人分の感覚だ。いつ労働災害が起きてもおかしくない」と批判するなど、労働側は猛反発。一方、日医の今村聡・副会長は「段階を踏んで移行することが大事だ」といきなり上限を厳しく規制することには慎重な姿勢を示した。労災などを懸念する労働側と、「医師は現状の労働時間で地域医療や患者の命を守っている」という医療界側の主張が真っ向からぶつかった。

 厚労省は、今年度末に規制案をまとめる意向だ。同時に看護師らに医師の一部業務を移管することにしている。ただし看護師も不足が際立っており、決定打にはなりそうにない。同省が旗を振る「勤務医とかかりつけ医の役割分担」も進んでいない。

 「医師の善意に甘え続けるのはおかしい」。1月21日、小児科医の夫を約20年前に過労自殺で亡くした中原のり子さんは、厚労省前であった連合の集会でそう訴えた。今も毎年100人程度の医師が過労死している。その7〜9割は自殺だ。厚労省幹部は「現状でいいとは思っていない。現実を見据えながら、ナローパス(狭い道)を手探りで行くしかない」と苦しげに話す。

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