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未来の会

第108回 尿酸低下剤で痛風増悪の機序

第108回 尿酸低下剤で痛風増悪の機序

 痛風は、関節の尿酸結晶により発作的に生じる激痛を伴う急性炎症である。血中尿酸値7.0mg/dL以上で高尿酸血症とされ、日本の高尿酸血症・痛風ガイドラインでは、痛風経験者は尿酸値7.0mg/dL以上、無症候性高尿酸血症でも9.0mg/dL以上なら、尿酸低下剤(尿酸生成抑制剤または尿酸排泄抑制剤)の使用が薦められている。

 しかし、欧米のガイドライン、特に米国内科学会(ACP)ガイドラインは、無症候性高尿酸血症はもちろん、痛風発作が頻繁に起こらない場合(年に2回以上なければ)尿酸低下剤は使用しないよう、強く推奨している。尿酸低下剤で治療効果が期待できる症状は痛風関節炎と腎結石のみで、腎機能悪化の防止など、他の病態に関しては根拠が乏しいからだ。

 そこで、薬のチェック誌では、81号(2019年1月)で、日本のガイドラインを批判し、高尿酸血症や痛風に対しては、徹底した非薬物療法と薬物なら尿アルカリ化剤を強く薦める記事を掲載した1)。

尿酸低下剤はなぜ痛風発作を増悪させるのか

 尿酸低下剤のアロプリノールやフェブキソスタットなど尿酸生成抑制剤を痛風発作に用いると発作が増悪し、発作間欠期であっても痛風発作が誘発される。これはランダム化比較試験(RCT)において確認されている。しかも、尿酸低下作用がより強いフェブキソスタットの方がアロプリノールよりも痛風誘発頻度が高いこともRCTで確認されている。このことから、筆者は、尿酸低下剤は、血中尿酸値を低下させるが、組織の尿酸濃度を上昇させるのではないかと疑ったことがあった。しかし、以下に述べるように、その可能性はなさそうである。

 血中尿酸値を尿酸低下剤によって長期間低下させ続けていると、尿酸値が低下すればするほど痛風結節の縮小スピードが速かったことが確認されている。また、関節内の尿酸結晶が減るのを超音波エコーで確認できたとの知見もある。さらに、アロプリノールなど尿酸生成抑制剤だけでなく、作用機序が異なる尿酸排泄促進剤で血中尿酸値を低下させても、痛風発作が誘発されるとの知見もある。これらの事実を総合すると、「尿酸生成抑制剤が組織中の尿酸濃度を上昇させるから」との理由では説明がつかない。

尿酸の抗酸化作用・抗炎症作用による

 尿酸は、プリン体の最終代謝産物だが、クレアチニンのような単なる老廃物ではない。人類は、尿酸代謝酵素を失い高尿酸を維持するように進化し、尿酸の抗酸化作用や抗炎症作用のおかげで、他の動物よりもはるかに長寿となった2)。

 関節内に尿酸の結晶が少しあっても、組織中の高濃度の尿酸の抗炎症作用で関節炎に至ることは抑制されているであろう。しかし、関節内に尿酸結晶が存在する状態で血中の尿酸濃度が急激に低下すれば、尿酸の抗炎症作用では炎症を抑えきれなくなり関節炎が起こるのではないか。既に痛風発作を起こしている場合は、尿酸の抗炎症作用では抑えきれないほどに尿酸結晶がたっぷりと蓄積しているであろう。その状態で、さらに血中の尿酸濃度が急激に低下すれば、炎症反応がより強まるのは当然といえる。

 その点、多量の水と血液のアルカリ化によって、尿酸の結晶を溶解しつつ、ゆっくりと血中尿酸値を低下させるようにすると、結晶の溶解と尿酸値の低下がバランスよく進行するため、痛風発作の誘発には繋がらないのであろう。

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