全ての救急病院が除染体制を整え、分単位での受け入れ準備を
欧米や中東を中心に無差別テロが相次ぎ、過激派組織ISが「日本は敵」と宣言している中、2020年に東京五輪・パラリンピックを控える日本でもテロが発生するリスクは決して低くない。東京医科歯科大学医学部附属病院副院長・救命救急センター長の大友康裕氏は2018年11月25日、医療ガバナンス学会が事務局を務める「現場からの医療改革推進協議会」第13回シンポジウムでテロに対する医療対応をテーマに講演した。大友氏は厚労省「災害医療等のあり方に関する検討会」座長などを歴任している。
冒頭、大友氏はISの手口として、SNSを活用して社会に不満を持つ対象国の若者へ過激思想を吹き込み、「ホームグロウン・テロリスト」に仕立て上げる手法を紹介した。また、国際テロリストからすれば、オリンピックは格好の宣伝の場であることから、既にプロのテロリストが日本に潜伏している可能性があるという。
日本のテロに対する医療体制は極めて不十分と述べ、各地で行われている国民保護共同訓練についても、「内容が机上の空論になっている」と指摘。例えば「化学テロが起きる現場に既に消防のテントが置かれているなど、テロ発生時の現実的な対応となっていない」と説明。その上で東京サリン事件を振り返り、当時の教訓から以下のような対策を述べた。
●最初は化学テロとは分からなかった(地下鉄で爆発物を用いたゲリラ事件と判断された)→行政の縦割りを排し、全ての手段によるテロに対応できる仕組みを作る。
●約8割の患者は消防の手によらず、高度汚染したままタクシーなどの一般車で直近の救急病院を受診、多くの2次被害が発生した→事前に対応する病院を指定しても無意味。全ての救急病院が除染・個人用防護具(PPE)の準備をする。
●消防から医療機関への連絡の10分後に最初の患者が病院を受診→分単位で受け入れの体制を準備。救急外来以外の全ての入り口を閉鎖し、PPEを装着したスタッフが入り口の外で出入りをコントロールする。
除染テントは、和歌山毒カレー事件後、厚労省から全国73カ所の救命救急センターに配備されたことから、「病院では除染テントが必要」との誤解が生じた。除染テントを10分で倉庫から運んで組み立てることは不可能であるため、実災害では役に立たない。代わりに、救急外来の外に、ごく短時間で脱衣ができる環境(あらかじめ張ってあるワイヤにカーテンを掛けるなど)の提供や常設の屋外シャワーの設置を推奨した。また、テロ現場において救急救命士による「プレフィルドシリンジ」(薬剤があらかじめ充填された注射器)の解毒剤投与を認めることを提案した。消防の計画では災害現場建物から100m以内を「ホットゾーン」(身体に悪影響を及ぼすものと接触する危険性が高い区域)にしているが、これでは広過ぎて救助が難しいことや、倒れている人を全て水で洗うことも困難なことを指摘した。
爆弾テロに関しては、「ダーティーボム」(放射性物質を拡散する爆弾)の場合、直近から先着した通常部隊隊員の内部被ばくを回避するために、消防の全ての部隊に放射線探知機を配備する必要があること、秋葉原無差別殺傷テロやボストンマラソン爆弾テロでの教訓から、直近の救命救急センターを現場救護所として運用したりすることを提案した。
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