1.小田原良治医師著作の新刊書
現行の医療事故調査制度の創設を主導した医師達の中心である鹿児島の小田原良治医師が、『未来の医師を救う 医療事故調査制度とは何か』(幻冬舎)という新刊書を著した。
同書では、「医師法第21条で医師が逮捕されるような状況下で、医療安全の制度というきれいごとで制度をまとめることなどありえない」「善意の制度が悪意に利用されることになる」と主張していた小田原医師が、戦術を転換していった模様が印象的である。
田原克志・厚生労働省医政局医事課長の発言で、医師法第21条問題が無害化されていくトレンドを察知し、戦術転換したらしい。「医療の内」(医療安全)と「医療の外」(紛争)を切り分けて、それぞれ別々に解決することに方針を転換した、というのである。
そして、その転換した方針の通りに、事は運んでいった。
本稿では、同書の末尾に添付された資料を引用し、まずは、医師法第21条問題が無害化されていったプロセスをたどることとしたい。
2.医師法第21条問題の無害化のプロセス
(1)田原克志・厚労省医政局医事課長発言
〔2012年(平成24年)10月26日 第8回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会 議事録より〕
「医事課長でございます。
医師法21条では、『医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に警察署に届け出なければいけない』というものでございまして、その犯罪の痕跡をとどめている場合があるということで、こういった届出義務を規定したというものでございます。
今、有賀先生のほうから御質問がありましたけれども、厚生労働省が診療関連死について届け出るべきというようなことを申し上げたことはないと思っております」
「検案は外表を見て判断するとなっておりますけれども、その亡くなられた死体があって、死体の外表を見たドクターが検案して、そのときに異状だと考える場合は警察署に届け出てくださいということだと考えております」
「基本的には外表を見て判断するということですけれども、外表を見るときに、そのドクターはいろんな情報を知っている場合もありますので、それを考慮に入れて外表を見られると思います。ここで書かれているのは、あくまでも、検案をして、死体の外表を見て、異状があるという場合に警察署のほうに届け出るということでございます。これは診療関連死であるかないかにかかわらないと考えております」
「ですから、検案ということ自体が外表を検査するということでございますので、その時点で異状とその検案した医師が判断できるかどうかということだと考えています」
「それは、もしそういう判断できないということであれば届出の必要はないということになると思います」
(2)大坪寛子・厚労省医政局総務課医療安全推進室長講演
〔2014年(平成26年)3月8日 医療を守る法律研究会講演会(於、鹿児島市)「医療事故調査制度について—行政の立場より—」講演録より〕
「大綱案の評判が悪かったのは、それだけではなくて、ずっと出てます、医師法21条の問題がございますが、それと取引をしたような形になっているところで、警察と取引をすると。医師法21条を削除するかわりに、一部の黒の事案については警察に届けますよといったような形になったところが、やっぱり一部の診療科においては、評判が悪かったという経緯がございます」
「この21年、22年あたりに政権交代も踏まえまして、もう一度、一から議論をし直して、今回の法案のたたき台になったというところですが、まったく考え方を変えておりまして、その医師法21条の話については、じゃあ、どういう解釈なんだ、ということを今一度求められましたので、先ほど、小田原先生から紹介いただきました、『医師法21条というものは、すべての診療関連死を届け出ろといっているものではありません』と、いうことと、最高裁の判例を踏まえて、『外表異状説』というものを、医師法の担当課の医事課長の方から、今一度、お話しをさせていただいたというところで、それを踏まえて、では、真に再発防止に資する制度というものはどういうものかという議論を1年半ほどしていただきました」
(3)田村憲久・厚生労働大臣参議院厚生労働委員会答弁
〔2014年(平成26年)6月10日 参議院厚生労働委員会会議録より〕
国務大臣(田村憲久君)
「医師法第21条でありますけれども、死体又は死産児、これにつきましては、殺人、傷害致死、さらには死体損壊、堕胎等の犯罪の痕跡をとどめている場合があるわけでありまして、司法上の便宜のために、それらの異状を発見した場合には届出義務、これを課しているわけであります。医師法第21条は、医療事故等々を想定しているわけではないわけでありまして、これは法律制定時より変わっておりません。
ただ、平成16年4月13日、これは最高裁の判決でありますが、都立広尾病院事件でございます。これにおいて、検案というものは医師法21条でどういうことかというと、医師が死因等を判定をするために外表を検査することであるということであるわけであります。一方で、これはまさに自分の患者であるかどうかということは問わないということでありますから、自分の患者であっても検案というような対象になるわけであります。さらに、医療事故調査制度に係る検討会、これ平成24年10月26日でありますけれども、出席者から質問があったため、我が省の担当課長からこのような話がありました。死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合には、これは警察署長に届ける必要があると。一連の整理をいたしますと、このような流れの話でございます」
小池晃君
「これで医師法21条が何でも医療事故を届けるようなものでないということがきちっと確認されたと思います」
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