様々な立場の医師が問題解決の方策や展望を議論
第一線で働く様々な立場の医師を迎え、「医師不足」「医療崩壊」解決の方策や展望を考えるシンポジウム「医師不足・医療崩壊『働き方改革』でどうなる⁉〜あなたの命は守られますか?〜」が10月27日、東京・千代田区内で開かれた。主催は、医師・歯科医師による医療再生を目指しているドクターズ・デモンストレーション実行委員会。
司会の本田宏・医療制度研究会副理事長(元埼玉県済生会栗橋病院院長補佐)は冒頭、「政府はずっと医療費の抑制に励んできた。それによって、病院や医師は厳しい状況に追い込まれている。今後、どれだけ医師の過労死が生じるか、心配でならない」と挨拶。また、「公立病院などは赤字なのに、手術料や入院料、外来診療料は欧米の半分くらい。一方、薬剤の価格はイギリスなどの倍もあり、製薬企業の利益率は非常に高い。このバランスの悪さをどうにかしなければいけない」と述べた。
医師増員による医師不足の解消を
最初に、勤務医の労働組合である全国医師ユニオンの植山直人代表が登壇。経済協力開発機構(OECD)平均と日本の医師数比較や医師労働時間の国際比較を示し、日本がOECDと比べて少ない医師数の差が長時間労働をもたらしていると話す。
医療費抑制のための医師数抑制の世論操作として、医療費が増え続ければ国家が潰れるという「医療費亡国論」(1983年)や、厚労省による〝デタラメ〟な医療費推計などを挙げた。これに対し、植山氏は①健康や医療に関する産業の発展など産業構造の変化②高齢化などによる患者数の増加③国民の健康に対する意識や人権意識の高まりによって、必要な医師数は増大すると予測。
同ユニオンが実施した勤務医労働実態調査の結果にも言及。「交代制勤務」は83・8%が「なし」、「当直明け後の勤務」は78・7%が通常勤務だった。「先月の休みの回数」は「0回」が10・2%いた。そのため、「当直明けの医療ミス」は「相当多い」「やや増える」が計67・7%、自身の健康については「健康に不安」「病気がち」などが計40・1%もいた。労基法の遵守は、特に大学病院が「守られていない」(59・4%)が多かった。
植山氏は医師不足のまま長時間労働が是正されると、「救急医療からの撤退」「外来診療の縮小」「産科・小児科の撤退」など地域医療の崩壊が起きると懸念。「必要なのは医師数の増員による医師不足の解消」だとし、自由開業制の在り方を含めた地域別・診療科別の偏在対策、計画的な医師の増員、応召義務の廃止と医療を受ける権利を明確化した法律の制定などを提案した。
次いで、全国自治体病院協議会副会長の原義人・青梅市病院事業管理者が、自治体病院を中心にした医師の偏在と働き方改革について述べた。
まず医師の偏在について、単純な人口対医師数では交通の利便性など地理的な条件が反映されないため、可住地面積(人が住み得る土地)を考慮する必要性を指摘。また、医師の働き方改革に関しては、医師の地域偏在、診療科偏在の問題解決が先送りされたままでの時間外労働の上限規制の適用に対し、医療提供体制の縮小などによる患者サービスの低下など地域医療の崩壊を招く可能性を危惧する声が会員病院から多く寄せられたという。
その上で、①地域偏在が解消されない限り医師数は足りているとはいえない②医療保険制度の負担の公平・平等の観点からも、地域偏在の解消を図る改正医療法・医師法に加え、早急かつ実効性のある対策が必要③医師の働き方改革については「地域医療の継続性」と「医師の健康への配慮」の両立を基本理念とし、慎重な検討と国民的議論が必要と述べた。
続いて登壇した全日本病院協会副会長の美原盤・美原記念病院(群馬県伊勢崎市)病院長はまず、全日病で実施した「医師の働き方改革に係る緊急アンケート」の結果を紹介した。厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」で検討されている上限時間をもってしても、約半数の会員病院は現状の救急体制を維持できないと回答。それらの病院では、主に常勤医師が当直対応を行っており、半数以上の病院が当直を労働時間に含めていなかった。また、勤務時間の上限規制が適用された場合、常勤・非常勤医師の増員で対応すると回答した病院が多数を占める一方、外来診療の縮小や救急診療の制限・取り止めを検討すると回答した病院も多かった。
働き方改革に対応した病院は赤字に
美原記念病院の医師の働き方改革への対応も紹介。常勤医師の業務軽減、業務の効率化、非常勤医師の増員により、常勤医師の当直回数が減ったり、気管カニューレ交換を特定行為看護師が行うため患者の評判も良くなったり、救急車搬入件数が増加したりした。医師が専門的な業務に注力できる体制が整い、病院機能が向上する一方、人件費は高騰し、それまで黒字だった病院経営が赤字になったという。
美原氏は「1人の医師が主治医となるのではなくチームで主治医とすることで労働時間を短くできる。そのためには医師数が必要だ。まず、労働時間制限を一律に行わず、例外や特例について配慮すべき」と話す。
最後に全国保険医団体連合会理事の竹田智雄・竹田クリニック(岐阜市)院長が登壇、「医師の働き方改革」は開業医にも影響する問題と述べる。「医師は増やさない」「診療報酬も抑えたまま」でのタスク・シフティング(業務の移管)、タスク・シェアリング(業務の共同化)に頼った働き方改革では、今まで病院勤務医が担ってきた医療機能の一部が開業医にシフトされるだけと指摘した。
また、改革案がフリーアクセス制限に繋がらないように注意が必要で、解決の方向性としては医師数の増加と診療報酬の引き上げが必要と話す。「開業医にとっての『働き方改革』とは、実態は『働かせ改革』。入院から在宅へと移行しながら、開業医をかかりつけ医として24時間縛っていく。医師はもう使命感だけではやっていけない状態だ」と述べた。
この後、事前に参加者から出された質問にシンポジストが答える時間が設けられた。「公立病院の赤字について、どう思うか」という問いに、原氏が「地方では地域医療を守るために赤字は仕方なく、都会でも不採算医療や政策的医療を実施すれば赤字が発生する。都会と地方の状況は違うが、都会の公立病院がなくなり、それを民間が継続的に補えるかどうかは疑問。もちろん、公立病院も赤字を減らす努力は必要」と答えた。
「フリーアクセスの制限について」という質問では、植山氏が「先進諸国の中で、日本が最もフリーアクセスは進んでいる。ただ、医師の偏在がこのまま進むと、皆保険制度が壊れてしまう。ルールを決めないといけない」と回答。美原氏は「現行のフリーアクセスで困ったことはない。これは、私達の地域の病診連携が進んでいるため」、竹田氏は「望む医療を受けられるフリーアクセスは守られるべき」と述べた。
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