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第128回 〝抜け道〟が次々生まれる医学部「地域枠」

第128回 〝抜け道〟が次々生まれる医学部「地域枠」

 2036年に医師の地域偏在を是正する——。厚生労働省は大学医学部に地域限定で働く医師を養成するための特別枠を活用し、特別枠出身の医師が中堅となる36年に向けて医師不足の解消を図る方針だ。ところが、現状の「地域枠」は募集数の1割超が一般学生枠に流用されていることが判明、早速、厚労省は地域枠を厳格化する方針を打ち出したものの、担当部局は「次々抜け道が生まれる」と苦り切っている。

 医学部の地域枠は、医師が足りない地域で一定期間働くことを条件に、枠を希望する受験生に奨学金を出すなどする仕組み。医師不足による地域医療の疲弊を受け、08年度には各医学部が定員を臨時的に増員することで地域枠を増やせる制度がスタートした。18年度は66大学が臨時措置として903人分の地域枠を設けた。それが……。

 「一般枠への上乗せにすぎない」「地域医療への意思を持った受験生を切り落としている可能性がある」。10月24日。この日あった厚労省の医師の需給を検討する会議の分科会では、示された国の調査結果に批判が相次いだ。

 地域枠には大きく分けて二通りある。一般学生枠とは別に募集する「別枠方式」と、一般学生枠の中でいったん合否を決定し、合格者の中から地域枠への移行者を募る「手挙げ方式」だ。

 文部科学省の調査によると、別枠では89%の入学者が奨学金を利用し、うち93%が決まった期間を最後まで地域で働く義務を果たしたのに対し、手挙げの場合、奨学金貸与は60%にとどまり、義務を果たした人も82%だった。

 「手挙げ方式は一般枠学生水増しの誘因になる」として、厚労省は翌25日、20年度から別枠方式でなければ増員を認めないとの通知を都道府県に出した。来春施行される改正医療法・医師法では、都道府県知事に大学に対する地域枠などの拡充を要請する権限が付与される。さらに、地域枠とは別に、「地元出身者枠」を別枠で設けることを検討している。

 ただ、効果は不透明。従来の「別枠」でも、奨学金を早期返済するなどして都心部に流出する医師は少なくない。厚労省は今年4月に初期臨床研修を始めた医師について、地域枠で入学しながら、他地域の病院で研修している医師が9人いることを公表した。全764人中の1・3%に相当する。

 「お金を返せばいいというのでは、制度が壊れる」との批判も強く、入学させた大学の責任を問う声もある。それでも、東北のある県の担当者は「奨学金を返されると、法的に止めることは不可能」と頭を抱えている。

 厚労省は今後、地域枠の要件から外れた学生をマッチングした医療機関に対し、補助金を減らしたり、研修医の採用人数を減らしたりする罰則を導入する。

 「罰則で縛り、嫌々地方に来た医師に診てもらうのも問題」(幹部)との声もあるものの、主体的に医師不足地域で勤務してもらうための妙案はなかなかないのが現状だ。

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