都内に5台しかない貴重な社会インフラの有効活用
4月にカマチグループに入り、東芝病院から改称した東京品川病院は、都内の病院でも5台しかない大型の「高気圧酸素治療装置」(最大8人まで同時治療)を所有している。患者は気圧の高い同装置内で100%濃度の酸素を吸収、体内に大量の酸素を送り込み、身体を回復させる。東芝病院時代の2005年に自由診療で高気圧酸素治療を開始。東芝が野球、ラクビー、バスケットの企業スポーツの強豪だったため、治療対象は選手のスポーツ外傷(打撲、捻挫、骨折など)や、首都圏のダイバーの減圧症の治療が多かった。
診療報酬点数の引き上げが追い風
今年3月までは保険点数が低く、保険診療では採算が取れなかったが、4月の診療報酬改定で採算ベースに乗ってきたことから、東京品川病院は今後、脳梗塞や晩発性放射線障害、突発性難聴、腸閉塞など幅広い疾患を対象に治療を行っていく。経営に寄与するだけでなく、貴重な社会的インフラを有効活用する点でも意味のある経営方針と言える。高気圧酸素治療に携わるスタッフに話を聞いた。
──高気圧酸素治療装置は都内でも5台しかないのですね。
山口信彦・臨床工学科主任 1人用の小型装置を持っているところはたくさんありますが、8人同時に治療可能で2.8気圧までかけられる大型装置は希少だと思います。東芝病院時代に導入した当時で設置工事費など含めて3億円以上しました。年間のメンテナンス費用や10年に一度のコンピュータ関連機器の入れ替えにもコストがかかるため、なかなか購入に踏み込めないのではないかと思います。
──高気圧酸素治療とは?
山口氏 身体で損傷した部分というのは、回復・治癒するためにたくさんの酸素を必要とします。酸素は血液中のヘモグロビンと結合して体内に運ばれますが、普段の呼吸からでは早期回復に至るまでの酸素量は供給できません。高気圧酸素治療装置を使うと、標準大気が1気圧のところを2.0気圧から2.8気圧に加圧します。その中で患者さんは酸素マスクを着けて100%濃度の酸素を吸うことで、血液に直接溶け込む酸素量を10〜20倍に増やして基礎代謝を上げ、病気や怪我で損なわれた組織の回復を促す治療法です。元々ある自分の体内細胞を活性化させる仕組みなので、副作用もほとんどありません。組織細胞の活性化を促すので、疲労回復にも非常に効果が高いです。
──加圧することで体に変調を来す人はいませんか。
山口氏 1000人に1人ぐらいの割合で、耳抜きができない人は中耳炎になる人もいます。我々は室内のモニターとマイクを通して患者の微妙な動きをキャッチし、問い掛けるようにしています。あとはスポーツ選手で、一緒に来ている先輩の前で「耳が痛い」と言えなくて中耳炎になるケースがあります。
──具体的な治療内容を教えてください。
山口氏 2気圧コースは90分で、難治性皮膚潰瘍や骨髄炎、突発性難聴などが対象です。2.5気圧コースは120分で、スポーツ外傷などが主対象。2.8気圧コースは120分以上で、減圧症や急性一酸化炭素中毒などが対象です。高気圧酸素治療は負傷後すぐに始めるほど効果が見込めるため、チームで24時間態勢で対応しています。
これまでの経験値が“エビデンス”
──減圧症は治療時間が長いのですね。
山口氏 当病院では重症の減圧症患者が多く、時間をかけて減圧するため5時間が基本です。改善されない場合は30分ずつ延長します。ダイバーは血管が傷ついているため、窒素がなかなか抜けないからです。また、減圧神経症という症状があるくらい一度痺れや疲れの症状が現れると、何度も発症します。神経症なので、患者さんの思い込みもありますが。
──患者の改善状態は何をもとに判断しているのですか。
仲田浩章・医療技術部長兼放射線科係長 数値的なものではなく、患者さんの訴えから状態を推測しています。これまで年間2500件以上の治療を行ってきた経験値がエビデンスになっているのです。
──診療報酬の点数はどう変わりましたか。
山口氏 3月までは、発症から7日以内の急性期は1回6000点(6万円)、8日目以降の慢性期は200点(2000円)でした。4月の診療報酬改定後は急性期と慢性期の区別がなくなり、病院にとって採算性が改善されました。
──今後の展望は?
新海正晴・副院長兼治験開発・研究センター長 高気圧酸素治療装置を導入している大学もありますが、東京品川病院の利点は、土・日曜や時間外なども対応可能なことです。スタッフのフットワークが軽いため、今後も高気圧酸素治療を必要とする患者さんのニーズに応えられるように努力していきます。
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