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第105回 薬物で血糖正常化は死亡を増加

第105回 薬物で血糖正常化は死亡を増加

 米国内科学会(ACP)が2018年3月、糖尿病の薬物療法に関して、良いガイダンス声明1)を発表した。ACCORD試験2)などの結果を重視して、糖尿病治療に関する各種ガイドラインを精査し、糖尿病患者の薬物による血糖コントロールは、1)HbA1cで7.0〜8.0%の間にあればよい、2)6.5%を下回るようなら、もっと緩やかな血糖コントロールになるようにすべき、3)生命予後が10年未満の人には利益よりも害が上回るので血糖コントロールは目指さず、症状の改善のみを図る、などがその内容である。

 一方、日本の糖尿病学会では、2016年の改訂まで(GL2010まで)は、血糖値のコントロール目標値としてHbA1cで6.2%未満としていた。2016年の改訂(GL2016)で、少しばかり緩めたものの、HbA1cでなお7.0%未満を目標としている。薬のチェックTIP3)では、これら糖尿病学会ガイドラインに従って薬物療法を実施すると低血糖が多発し、心血管疾患死、総死亡が増加するため、薬物で血糖値を正常化することを目標にしないように呼び掛けた。その概要を紹介する。

「優、良」は「不十分、不良」より死亡22%増

 日本糖尿病学会ガイドライン2010年版(GL2010)の「優」(HbA1c6.2%未満)に薬物で血糖コントロールした場合はもちろん、「良」(GL20016の合併症予防目標:HbA1c7.0%未満)でも低血糖発作、心血管疾患病が多発し寿命が縮まる。これは、ACCORD試験2)が明瞭に示している。ACCORD試験はHbA1cで6.0%未満を目標にした厳格群と7.0〜7.9%を目標にした緩和療法群(GL2010では不十分〜不良)を比較したランダム化比較試験(RCT)である。HbA1cで6.0%未満を目標にしても、4分の3は達成できず、半数の人はHbA1c6.4%以下しか達成できなかった。一方、緩和目標はおおむね4分の3の人が達成できた(達成HbA1c中央値7.5%)。そして、心血管病の発症は、ハザード比(HR)でみて、厳格群が緩和群に比べて35%増加し、総死亡も22%増加していた。3.5年間厳格治療をすると緩和治療した人より95人に1人が余計に死亡するという恐ろしい結果が得られた(NNTH=95)。

学会ガイドラインなら4〜7倍追加治療を要す

 ACPガイダンスに従えば、日本の糖尿病患者の11.6%に追加治療が必要なだけだが、GL2010に従うと84.6%、GL2016では46%と、ACPガイダンスによる場合のそれぞれ7.3倍、3.8倍の糖尿病の人に追加治療が必要となる。ACPガイダンスに従えば、HbA1cが7%未満なら薬物による血糖コントロールを緩めてもよく、6.5%未満なら薬物治療を緩めるべきなので、それぞれ糖尿病者の27%が緩めてよく、糖尿病者の7.5%の人は緩めるべきだ。

実地診療では

 2型糖尿病は、過剰な糖質摂取を続けることに加え、睡眠不足など強いストレスが持続すること、それに不良な植物油脂の摂取で発症し悪化する。糖尿病の程度に応じた糖質制限食を基本とし、睡眠剤に頼らない十分な睡眠時間を確保し、強いストレスの原因を見つけてその解消を図るとともに、良質な油脂を摂取することで、薬剤に頼らない糖尿病治療が可能となる3)。薬物中、有用な薬剤は、インスリンのみである3, 4)。


参考文献
1) Qaseem A et al. Ann Intern Med 2018; 168:569-76
2) ACCORD investigator N Engl J Med 2010; 362: 1575–85
3) 薬のチェックTIP、2018:18(80):134-138
4) 浜六郎、脂質栄養学. 2017: 26(1):59-74.

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