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未来の会

第99回 株価低迷は武田の将来に対する市場の意思表示

第99回 株価低迷は武田の将来に対する市場の意思表示
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 武田薬品の株価低迷が続いている。株価の戻りは鈍いままで、現在も格別、好転する材料は見当たらない。

 約6兆8000億円という桁外れの買収費が薬事業界のみならず、日本の経済界に衝撃を与えたアイルランドの製薬会社・シャイアーのM&A(企業の合併・買収)を検討というニュースに流れてからはや半年——。この間、6月には買収の是非を問う株主総会も開催され、社長のクリストフ・ウェバーは無事乗り切ったかに見えたが、株価が上向く気配はない。

 そうした武田のお寒い現状は、今回の海外M&Aについてウェバーが何をどう説明しようが、既に市場は「武田の将来性には期待しない」という暗黙の意思表示をしていると言えなくもないだろう。

 武田の株は2018年の1月に、6693円の高値を付けた。だが、2月の世界同時株安の煽りを受けたという事情も加味しなければいけないが、3月28日にシャイアーの買収検討を表明してから一挙に下落。5月8日に買収合意が伝えられるといったんは持ち直したが、6月半ばには年初来安値4203円を付けた。9月6日段階で4488円だから、2200円以上の下落だ。

 武田は7月31日に18年4〜6月期の連結決算を発表したが、純利益は782億円と前年同期比で46%減った。売上高は、前年比0・4%増の4498億円だった。前年同期に、試薬子会社・和光純薬工業(現・富士フイルム和光純薬)を富士フイルムホールディングスに売却した約1500億円を計上していたための反動減が大きかったこともある。この決算を考慮すれば、必ずしもシャイアーの買収だけで現状を説明できない面もある。だが、これまでの株価の推移から見て、巨額の海外M&Aが最大の要因になっているのは疑いない。

時価総額で自社上回る企業を買収する愚

 考えて見れば、買収相手のシャイアーの評価以前に、そもそも時価総額で自社を上回る企業を買収するような会社の株が上がるような事態は、あっても稀に違いない。やっていることが常識外れで、しかも武田の場合、いかにも追い込まれた末に苦し紛れの大博打に手を出したという印象が、拭えなかったはずなのだ。

 最初から市場に評価されるような要素など乏しく、いくらウェバーあたりが「世界売上高ランキングでトップ10入りを果たす」などと、あたかも格別の意味があるかのように豪語しようが、シビアな眼で見たら、その程度のことが今後の武田の宣伝材料になるはずもない。

 前社長の長谷川閑史の時代から、いくら巨額の研究費を投じても、大型新薬の開発は一向に進まない。そうこうしているうちに、抗潰瘍薬の「タケプロン」や高血圧薬の「 ブロプレス」、糖尿病薬「アクトス」、前立腺がん薬「リュープリン」といった武田が誇るブロックバスター(年商1000 億円以上の新薬)は次々に特許失効が到来し、後期開発パイプライン(新薬候補)もスカスカになってきて焦りまくった挙げ句、残された選択肢は海外M&Aしかなかったのは周知の事実だ。

そんな武田がさらに桁外れの買収費を注ぎ込んだら、これまたリスクを無理して背負ったと市場に見なされ、好材料になるはずもない。

 それでもこの半年間、株主総会を含めウェバーや会社幹部が「買収は株主にプラス」という類いの説明をする機会はいくらでもあったはずだ。にもかかわらず株価が低迷しているのは、会社側の説明に満足できるような説得性が欠けているためとしか考えられまい。

 しかも、「グローバル経営」とうそぶきながら、海外M&Aの路線を敷き、自分の後釜にわざわざ外国人を据えた相談役の長谷川がこの間、沈黙しているのも気になる。

 なにしろ、「CFO、Chief Financial Officerとか、Chief Medical and Scientific Officer、研究開発本部長とか、Chief Human Resource Officer、Global人事部長とか、Chief Information Officer、つまりGlobal Information TechnologyのTopとか、Global Procurementという、Globalに調達をするTopとか、そういった人達を欧米の企業からHead Huntして持ってきて、それらでTeamを作って」(インターネットサイト「早稲田応用化学会」の「タケダのグローバル化への挑戦」より)だのと、「国際色」豊かに雄弁ぶりを発揮する長谷川のこと。いくら、経営に口を挟まないという条件で、相談役といういかにも「日本的」な役職に今もしがみついているとはいえ、この辺で「Global Information」を駆使し、世間や株主に買収の正当性でも弁じないでどうするのだ。

最大の懸念材料は買収後の財務の悪化

 しかも、今回の買収が実現するためには、武田・シャイアー両社が臨時株主総会を開き、武田は3分の2以上、シャイアーは4分の3以上の株主の賛成を取り付けねばならない。その時期は年末から来年前半までに予定されているが、現在も残る最大の懸念材料は、やはり買収後の財務の悪化だ。

まず、有利子負債の急増が避けられない。2社合計で3・2兆円。これに買収資金の新規調達金の3兆円超が加わるから、武田は今後、6兆円を超える借金を抱えてしまう。そして、より深刻なのは「のれん」の問題だろう。

 会計評論家の細野祐二氏の試算だと、武田が買収後の連結貸借対照表に資産計上する「のれん」は、約3兆3000億円。武田の18年3月期末の連結自己資本合計は2兆174億円だから、武田は買収後に超過収益を出さないと、「のれん」は減損となって連結債務超過になるという。

 にもかかわらず、武田の既存の「のれん」1兆292億円(同期)と、シャイアーが抱えている「のれん」の2兆1430億円が加わり、計6兆4722億円という「日本の財務会計史上空前の『のれん』が出現」する。その結果、「武田薬品は7兆円の巨額買収を実行する財務会計的基盤がない」(「武田薬品工業 情報開示の優等生シャイアーを囲い込み企業価値潰す『掃き溜め』経営」、『FACTA』18年8月号)という、恐ろしすぎる結論に行き着く。

 もはや、株価の下落どころではない。こんな買収を強行する経営者は背任行為に手を染めたにも等しいと思われるが、武田の株主は細野氏の試算をどう見なすのか。せめて臨時株主総会まで、武田の責任ある見解を聞きたいものだ。 (敬称略)

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