ネガティブ情報にメディアが便乗する構図も
ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経細胞を難病のパーキンソン病の患者の脳に移植する京都大学の世界初の臨床試験(治験)が8月1日から始まった。iPS細胞の再生医療では、理化学研究所(神戸)などが目の難病である加齢黄斑変性の患者にiPS細胞から作った網膜の細胞を移植する世界初の臨床研究を行っている。また5月には、重症の心不全患者↘の心臓にiPS細胞から作った心筋シートを移植する大阪大学の世界初の臨床研究が国に承認されている。
心臓や脳といった重要な臓器への移植の挑戦、実用化に近い治験の開始は再生医療に弾みが付く。患者や医療人の間では再生医療への期待が高まる一方、報道する一部マスコミの姿勢に疑問の声が上がっている。特に大阪大の心不全治療の臨床研究に対する報道である。例えば、毎日新聞5月17日付朝刊では「大量移植 懸念の声も」「世界の潮流はES細胞」、日本経済新聞6月18日付朝刊は「早期承認制度 批判の的」「英誌『有効性確認が先』」などの批判的な見出しが並んだ。
これに対し、ある再生医療の研究者は「今更ながら早期承認制度を批判したり、国策とも言えるiPS細胞の推進より、海外で研究が先行するES細胞を勧めたりするなど、日本の足を引っ張っているとしか思えない」と憤る。
新聞記事に出てくる英誌とは、科学誌『ネイチャー』のことだが、前出の関係者は「同誌は日本の再生医療に関して批判的な記事が目立つ。そのような海外の雑誌の誤った論点を鵜呑みにして、自国の再生医療を批判するのは日本のメディアとして情けない」と嘆く。
国は海外に遅れを取った医薬品・医療機器の産業化で巻き返すため、再生医療新法と改正薬事法を2014年に施行、再生医療製品を承認した。二つの法律は条件及び期限付き承認制度(早期承認制度)が目玉で、海外からも高く評価された。
メディアの報道姿勢の背景には、何かあるのだろうか。「再生医療の研究者達の妬み、り、恨みがあり、それにメディアが乗っかっている構図があるのではないか」と、別の再生医療の研究者は推測する。再生医療の研究は前述の関西勢の大学・機関以外にも、東京医科歯科大学、慶應義塾大学、順天堂大学なども取り組んでいる。「中には、先行している研究に対して、記者達にネガティブな情報を流している研究者もいるようだ」と打ち明ける。
では、なぜメディアはネガティブ情報に乗っかるのか。「森口(尚史)事件(iPS心筋を世界で初めて臨床応用したという読売新聞の誤報)やSTAP細胞事件など、再生医療に関する過去の誤報が教訓になり、当事者の話を真に受けず、先進的な研究や治療に対して懐疑的になっている面があるのではないか。しかし、今回は先行研究のアンチの立場の話を真に受けている逆バージョン。スクープとしてのスキャンダル狙いもあるだろう」と、前出の研究者は話す。
本格始動したばかりの再生医療だけに、慎重さも求められる。一方で、アメリカでは日本に負けじと、再生医療製品の早期承認の動きを加速している。「為にする報道」ではなく、研究の進展に繋がるような報道が求められているのではないだろうか。
「当事者の話を真に受けず、先進的な研究や治療に対して懐疑的になっている面があるのではないか。」・・・良いことだと思います。エビデンスベースでのオープンな議論は重要。
最近の京大のiPS細胞論文捏造事件(これも、問題になる前にマスコミは大々的に誤報を流したのですよ)のおかげで、余計に慎重になってるのですよ。
それにしてもなぜ、上記事件の主犯と教授はこれほどまでに保護されるのか?
主犯の山水氏の懲戒解雇は当然として、教室の山下教授の監督責任、オーサーシップ問題は厳しく問われるべき。