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未来の会

【カナダ】高齢者施設とショールダイス病院②

【カナダ】高齢者施設とショールダイス病院②

 前回に引き続き、ショールダイス病院がなぜ成功しているのかについて考えていきたい。

サービスマネジメント

 The Shouldice Experience──。ショールダイス病院は「ショールダイス体験」と銘打って、便宜性と快適さを追求した豪邸リゾートのような環境での患者ケアを売りにしている。元々はプライベートなレジデンスだった建物を病院にしているため、一般的な病院とは雰囲気が全く異なっている(写真①)。

 さらに、患者同士が友人になることを奨励しており、実際にラウンジで患者同士が談笑している様子が見られた。患者数が少ない時には年に1回、病院主催で患者の忘年会を開いていた。このようなイベントの開催には、定期的な患者へのフォローができるメリットがあったという。

 ショールダイス病院の運営に関しては1983 年、ハーバードビジネススクールのMBA(経営学修士) プログラムの事例として取り上げられている。この事例は世界の約500のビジネススクールで使用されているが、さすがに古くなっており、現在改定の話があるという。

手術へのこだわり

 ニッチ戦略で成功したかのように見えるショールダイス病院であるが、実は手術の術式にも非常なこだわりがある

 20エーカー(約8万m²)という広い敷地にあり(写真②)、臨床的な病院を感じさせない建物には五つのオペ室と89床の病床 が設けられ、10 人の外科医と160 人の従業員が医療、その他業務に従事している。

 ヘルニア修復術の生涯成功率は99.5%であり、鼠径ヘルニアの再発率は0.5%となっている。これは今までの30万以上の症例の実証事例に基づく結果である。

 手術術式へのこだわりは、現在主流になっている鼠径ヘルニアに対するメッシュ挿入手術に対して、否定的であるということである。

 メッシュを入れると手術は簡単だが、長期的にはメッシュが縮小してくるために、10年から15年の単位で見ると15〜20%の患者が痛みに悩まされることがあるそうだ。そのため米国などでは、使ったメッシュを取り出すような手術を行うような状況になっているという。

 ショールダイス病院は、メッシュを入れる手術を行わないことをかたくなに貫いてきた。実はショールダイス病院は広告などのマーケティングは一切行っていない。これはカナダにおける医療広告規制の問題もあるが、それ以上に口コミを重視しているからでもある。

手術の効率化

 手術室の効率化という点でも、ビジネススクールから関心を持たれたことがある。インドの白内障手術の病院などでも見られるが、これは「フォーカスト・ファクトリー(得意分野に絞り込んで製造する工場)」という生産システムを応用した考え方である。

 定型的な手術が多いので、手術の準備が非常に効率的にできる。そのため、オペとオペとの間の時間はわずか5分である。

 なお、カナダでは民間の病院が極めて少ない中、ショールダイス病院は民間が運営している。同病院のあるオンタリオ州も民間病院はわずか六つしかなく、残りの約200病院は全て公立病院であるという。

 手術のコストは決して高くなく、カナダ人に対しては1件75ドルで一つの手術を行っている。ちなみに、腹腔鏡下手術を行った場合、コストは約10倍になる。また、ドクター一人が行う手術件数は1日6件ほどだという。

 なお、術後は4時間ですぐに歩くことができるようになる。このような日常生活への早期の復帰、あるいは歩いたり動いたりすることが最高のリハビリであるという考えの下、敷地内にはビリヤードやパターゴルフが備えられている。

 驚いたのは看護師の給料の高さである。これはショールダイス病院のあるオンタリオ州全体に言えることかもしれない。ショールダイス病院の場合、正看護師は平均時給が45ドル、新卒が38ドルということであった。

 また、麻酔科医は3人で二つの病室をカバーする体制をとっている。麻酔は基本的に全身麻酔を行っていない。 

 手術の基本は予定手術だが、患者の体調不良などで手術がキャンセルされる場合もあるので、ショールダイス病院ではそれも見込んで手術計画を立てているという。

 ショールダイス病院の設立者の息子であるBumps Shouldice医師(写真③)に中央材料室を見せていただいたが、意外とオールドファッションであり、電子カルテをまだ取り入れてはいなかった。外国の患者も一定数いるが、今まで日本人は一人も患者として来たことがないと言っていた。


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