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「医師の働き方改革」の議論に勤務医の現場の声を届ける

「医師の働き方改革」の議論に勤務医の現場の声を届ける
植山直人(うえやま・なおと)1958年福岡県生まれ。90年鹿児島大学医学部卒業。健和会大手町病院(北九州市)で救急医療を中心に研修。その後、中規模病院や診療所で在宅医療に取り組む。98年東北大学大学院応用経済学科で福祉経済学を専攻(修士課程終了)。修士論文は「スウェーデン福祉国家の危機と展望」。2009年全国医師ユニオンを設立、同代表に就任。現在、医療生協さいたま行田協立診療所所長、ドクターズ・デモンストレーション共同代表世話人、行田市医師会理事、日本医師会勤務医委員会委員、日医「医師の働き方検討委員会」委員。著書に『起ちあがれ!日本の勤務医よ』『医師の働く権利 基礎知識』(共著)など。

国が進める働き方改革の中で、医師の働き方についても様々な議論が行われている。その中心となっているのが、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」だ。しかし、委員の中に勤務医の代表が含まれていないため、現場を置き去りにした議論が進められているのではないか、と全国医師ユニオンの植山直人代表は指摘する。「勤務医労働実態調査」に基づき、どう改革すべきかについて話を聞いた。

——医師の働き方改革に関して、厚生労働省に要請文を出していますね。

植山 3月6日に「勤務医の働き方改革に関する要請文」を出しました。いろいろな要請を行っていますが、その中で緊急要請としたのは、「医師の働き方改革検討会」の委員に医師の労働組合の代表を加えてほしいということです。というのも、あの検討会に参加しているメンバーを見ると、医療側の代表となっているのは、病院経営者の方と優秀な若手医師だけで、バランスが取れているとはとても言えないのです。労働界から3人参加していますが、この人達は医師ではありません。つまり、医療現場で働く医師の労働実態を知っている人が、議論に参加していないのです。これは大きな問題だと思っています。5月15日に、参議院の厚生労働委員会に呼ばれたのですが、その時も真っ先にそのことを言わせていただきました。

——議論の中身にも疑問を感じますか。

植山 議論が始まった当初、医師は労働者ではないとか、医師の仕事に労働時間規制はなじまないとか、応召義務があるのだから無理だ、というようなことを医療界側の方達がしきりに言っていました。医療界の人達は、医師は特別だからと時間規制に反対し、法律学者や他の労働界の人達は、そんなのはおかしいと主張して、議論は平行線をたどっていました。しかし、例えばヨーロッパでは、医師が労働者であることは当たり前の話です。日本でも、過労死裁判が行われる前ならまだしも、過労死裁判が行われて判決も出ているのに、まだそんなことを言っているのか、とあきれてしまいます。医師が労働者でないとしたら、これまでの過労死裁判は全て否定されることになります。

——医師が労働者なのは議論の前提ですね。

植山 一般市民の中には、医者は特別だから、という考えの方がいてもおかしくはないと思います。しかし、病院管理者で、しかも病院団体を代表するような方が、そういう低い認識では困るな、と思います。十分に勉強していただき、国際的な常識を持って発言していただきたいものです。そうでないと、議論が噛み合わないと思います。

——ヨーロッパでは常識であることが、日本ではそうではないのは、なぜでしょう?

植山 ILO(国際労働機関)が工業労働者の8時間労働制を打ち出してから、来年でちょうど100年になります。ワークライフバランスについて、100年前から考えられていたわけで、そういった歴史が違うのでしょうね。そもそも8時間労働制というのは非常にシンプルな話で、1日を三つに分けたわけです。3分の1は働きます。3分の1は寝ます。あと3分の1は自由な時間です。まさにワークライフバランスなんです。人間が人間らしく働くという考えが、これまでの日本の医療界には抜け落ちていたのだと思います。

10人に1人が1カ月間休みゼロ

——勤務医の労働実態調査を行っていますね。

植山 勤務医がどのような労働環境に置かれているのかを調べ、医師の働き方改革検討会の議論に反映させたい、ということで調査を実施しました。「先月の休みの回数」についても調べてみました。労働時間に関する調査はよく行われますが、きちんと休みが取れているかどうかも非常に重要だからです。結果は、0回という人が10・2%いました。10人に1人は、1カ月間休みがなかったということです。0回〜3回までの人を合わせると、ほぼ3分の1になります。労働基準法では、4週4休というのは、36協定でも変えられない原則です。しかし、3人に1人はそれが守られていないわけです。かなり異常といっていいでしょう。働き過ぎは分かっていましたが、こんなにひどいとは思っていませんでした。


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