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第60回 武田薬品に誇大広告で史上初の「業務改善命令」

第60回 武田薬品に誇大広告で史上初の「業務改善命令」
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
武田薬品に誇大広告で史上初の「業務改善命令」

 厚生労働省が誇大広告に対して史上初の行政処分を断行した。対象は国内最大級の製薬企業、武田薬品工業。2006年と10年に作った「ブロプレス錠」(一般名:カンデサルタン)を、他社の薬品である「アムロジピン」と比較した医療関係者向けの広告が問題となった。

 厚労省は「武田が臨床研究『CASE‐J』で確認されている以上の効果があるように宣伝していたことは『医薬品医療機器法』が禁じる誇大広告に当たる」として、6月15日、業務改善命令を出した。

 武田は1カ月以内に広告の社内審査に外部有識者を加えるなど、是正措置と再発防止策を含んだ改善計画を策定し、厚労省に提出しなければならない。

「矢印」「ゴールデンクロス」「切り札」
 CASE ‐Jは京都大などのチームが01〜05年に実施。武田は37億5千万円の資金を提供した。高血圧の患者約4700人を対象に、ブロプレスと別の薬で脳や心臓の病気の発症を抑える効果を比較している。昨年2月、「臨床研究の論文のグラフと同社の広告のグラフが異なる」と専門家が指摘したことで、問題が発覚した。

 武田は、服用した場合の脳卒中などの発症率が、他社製品と比べて差がないにもかかわらず、「矢印」などで効果を強調していた。

 厚労省によれば、武田の製品と他社製品を服用した場合の脳卒中などの発症率を比較した場合、統計的な有意差が認められなかった。にもかかわらず、発症率が他社製品を下回ることを強調するために、グラフが交差する部分に「矢印」を使って「ゴールデンクロス」と明記するなど表現の強調を行っていた。

 武田が広告に使用したグラフは正しい数字を反映したものに比べ、自社製品の発症率が低く見えるよう加工されている。その上、「切り札」という用語で本来の効能・効果ではない副次的な効果についても宣伝していた。

 狭心症や脳卒中を抑える効果が一部高くなるよう臨床研究の結果とは異なる宣伝を行っていた──武田はこのかどで昨年3月、記者会見を開き謝罪している。武田の依頼を受け調査を行った「第三者機関」は「医師に薬の効果を誤解させるほどではなかった」と説明。やはなかったと結論づけた。この調査がいかにお手盛りだったかは本誌既報の通りだ。

 厚労省は調査を進めた結果、医師向けのパンフレットや医学雑誌で「薬の効果」として繰り返し宣伝していた事実は、結果として医薬品医療機器法が禁じる誇大広告に当たると判断。特に副次的効果を示した資材が約8年間にもわたって使われ続けたことを重く見て、業務改善命令を出すに至った。遅きに失した判断だ。

 報道によれば、武田のコメントは次の通り。

 「処分を受けたことをに反省し、心よりおわび申し上げます。さらに高い信頼の獲得・維持に向けて全社一丸となって努力してまいります」

 医療界や厚労省を含め、こんな無礼な談話を額面通りに受け止める者は皆無だろう。

武田とアステラスの明暗を分けたもの
 武田は15年3月期の純利益でアステラス製薬に抜かれることが確実視されている。武田の15年3月期連結純利益(国際会計基準)は、前期比39%減の650億円になる見通し。従来予想を200億円下方修正している。

 海外で血液がん治療薬「ベルケイド」などが伸長。だが、研究開発費の税務上の処理方法を見直した結果、税負担が増したという。

 売上高に相当する武田の売上収益は2%増の1兆7250億円。米国で昨年発売した潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」などの新薬が堅調。主力薬の特許切れによって、不振から抜け出せない国内の業績を海外が救った格好だ。

 アステラス製薬は欧米で前立腺がん治療薬「イクスタンジ」や過活動ぼうこう治療薬「ベタニス」などの販売が好調。後発薬の普及や薬価改定で減収となった国内を補っている。

 連結純利益でアステラスは武田の2倍。13年3月期に5752億円、14年同期には5817億円あった売上高の差は4778億円にまで縮減した。2年間で約1000億円の猛追だ。

 15年3月期の業績では武田が前述の通り下方修正。アステラスは上昇カーブを描き、武田に差をつける結果となった。

 昨年10月、アステラスの時価総額が武田を逆転したのは記憶に新しい。その後、武田は再逆転。だが、15年3月期の純利益次第では今両社の関係はどう転ぶか分からない。

 ブロックバスターが特許切れを迎える「2010年問題」に関しては武田とアステラスの置かれた環境に大きな違いはない。明暗を分けたのはトップの資質と施策の是非である。

 武田は08年、米ミレニアム・ファーマシューティカルズを約9000億円で買収。生え抜きのプロパー社員を押しのけ、同社スタッフをがん領域の中核に配した。「がん領域で世界トップ3を目指す」とぶち上げたものの、その後の業績はあらためて触れるまでもない。

 その後、武田は11年にもスイスの製薬会社ナイコメッドを約1兆1000億円で買収。相次ぐ大型買収が期待された大型新薬に結実した形跡は今のところない。武田の会長兼最高経営責任者(CEO)長谷川閑史の責任は重い。

 その点、アステラスの立ち回りは武田と好対照。同社は企業買収(M&A)戦略をがん領域に特化した。米製薬ベンチャーから09年、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の開発・販売権を約100億円で買い取った。翌10年、抗がん剤で知られる米OSIファーマシューティカルズを約3700億円で買収していく。

 イクスタンジは12年に米国で発売となった。15年3月期、この薬は欧米で売上を伸ばしていく。

 武田薬品の15年3月期の役員報酬総額は10億3900万円となった。長谷川や社長のクリストフ・ウェバー以下、社内の取締役8人分の合計である。6月26日に開催する株主総会の招集通知で開示した。前期との単純比較では約3倍に増えている。個別報酬は開示していない。

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