ベンゾジアゼピン剤(benzodiazepine:BZD剤)や、構造的にやや異なる非ベンゾジアゼピン剤(Z剤)は、いずれもベンゾジアゼピン受容体作動剤である。しばしば「軽い薬剤」などと説明されて、睡眠剤や抗不安剤、あるいは、頭痛や肩こりといった軽い症状にもベンゾジアゼピン剤が安易に処方されている。しかし、根本的な治療ではないので症状は改善されず、依存やうつ病を増加させるなど、害は大きく、社会問題となっている。
薬のチェックTIP誌では77号(2018年5月発行)において、ベンゾジアゼピン剤(Z剤も含む)による感染症、特に肺炎との関連についてレビューを行ったので、その概略を紹介する。
睡眠剤RCTのメタ解析で感染症が増加
ゾルピデム(マイスリー)など睡眠剤4剤の承認の根拠となった36件のRCTのメタ解析の結果、感染症の危険度(リスク比:RR)は1.44(p<0.0001)と報告されている。ゾルピデムの危険度は約2倍(p=0.006)であった。
大規模疫学調査で危険度は1.5〜2.5倍
8件の観察研究のうち、6件は、肺炎以外の背景因子をマッチさせたり、症例の4倍〜6倍の対照群を用い、対象者数合計が1.7万人〜24万人の大規模の症例−対照研究、あるいは大規模コホート研究であった。大規模研究の結果は、いずれもベンゾジアゼピン剤を用いると肺炎が有意に増加していた。危険度はいずれも1.5〜2.5倍(オッズ比やハザード比)であった(多くの場合p<0.001)。
そして、危険度が特に高まるのは、1)服用開始後30日以内、新規使用例、2)超短時間作用型の睡眠剤、3)ふだん健康な人、4)高用量-多剤、などであった。また、BZD剤により肺炎を起こすと、死亡率の増加にも繋がることが報告されていた。
常用量超2種類で3.5倍-用量-反応関係あり
明瞭な用量-反応関係が報告されている。常用量の半分以下を1剤でも調整オッズ比は1.5(p<0.001)だが、常用量超1剤で2.2、常用量の0.5〜1倍を2剤で3.0、常用量超を2剤で3.5(いずれもp<0.001)であった。
一方、関連なしと結論した2件の報告は、いずれも規模が小さく(3000人程度)、これらを含めた観察研究のメタ解析結果は危険度1.7倍であった。
機序も矛盾せず、因果関係あり
ベンゾジアゼピン受容体は、中枢神経だけでなく、末梢組織、特に免疫系細胞にも存在するため、免疫の働きを抑制する。
以上、ベンゾジアゼピン剤と感染症の増加、肺炎の増加は、疫学的に強固な関連があり、しかも再現性があった。作用機序の面からも、矛盾なく説明が可能であった。従って、ベンゾジアゼピン剤と肺炎・感染症の増加には因果関係があるといえる。
実地診療では
ベンゾジアゼピン剤は決して「軽い薬剤」ではない。依存性だけでなく、うつ病を増やし、転倒や交通事故などにも繋がる。そして、免疫をも抑制する結果、感染症を全般に増加させる。肺炎はベンゾジアゼピン剤1剤で2倍、常用量超2剤で3.5倍増やす。安易に使用してはいけない。
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