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未来の会

日本発「手術支援ロボット」への期待

日本発「手術支援ロボット」への期待
高齢会でめら低侵に貢

2018年度の診療報酬改定では、インターネットやテレビ電話などを介して医師が診断を行う「遠隔診療」について、対面診療の再診料に相当する「オンライン診察料」などが新設された。これで、遠隔診療の普及に拍車が掛かるのではないかと見られている。

 さらに、ロボット支援下内視鏡手術についても、一挙に保険適用が拡大したことは朗報だと言える。日本では09年に医療機器として承認された手術支援ロボットは、12年に前立腺がん全摘手術、16年に腎臓がん手術に保険適用され、今改定で、肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、膀胱がんなど、計12件で保険適用が追加承認された。これで、主要な固形がんはほぼ全てがカバーされることになった。

 日本ロボット外科学会によれば、国内の症例数は15年に1万3228件(前年比36%増加)、累計で3万976件に上っている。

 手術支援ロボットは、日本を含む世界中の市場を、1社がほぼ独占している。米国のベンチャー企業であったインテュイティブサージカル社の「ダヴィンチ」は、2000年に米食品医薬品局(FDA)に承認され、世界で4000台超、国内では約250台導入が導入されているとされる。日本では1台、約2憶5000万円と高額のため、保険適用の拡大は待望されていた。なお、海外での価格は半額程度とされる。

 ダヴィンチは元々、戦時の遠隔医療用に開発されたロボットである。米国防総省が戦地で使える物として研究しており、その技術が大学やベンチャー企業に移譲された。米国は、軍事目的で優れた製品であれば、大規模な投資が行われる。その技術が民間に移譲され、市場から資金を調達されて製品化された。

 最初に開発されたのは、コンピュータ・モーション社の「ゼウス」というロボットで、術者が遠隔操作を行う制御卓(コンソール)、コンピューター制御システム、手術器具を動かすアームから成る。二番手のダヴィンチは、当初心臓外科手術用に開発した双腕型のマスター・スレーブ・システムである。術者が手元のコンソールでマスター・アームを操作して、患者の体内で作業を行うスレーブ・アームの運動を制御する。

2020年の実用化を目指す日本勢

 ダヴィンチのメリットは、いくつもある。まず、従来の内視鏡は2次元画像が主流だったのに対して、3次元画像モニターを搭載していて高精細な視覚情報が得られることだ。また、術者の手の動きのぶれを吸収する手ぶれ防止機能がある。また、関節の自由度は高く、通常の内視鏡が5自由度(関節が五つ)しか得られないのに対し、ダヴィンチは7自由度で、より術者の動きを再現できる。さらに、人間の手首の可動範囲より広い540度回転までの可動域がある。座って操作するので疲れにくく、外科医としての職業的な寿命を延ばすと言われている。

 一方で、その最大のデメリットは、コストパフォーマンスが悪いことだろう。特に、日本は、各施設が医療機器を持って、手術を行う。これに対して、米国や韓国はセンター方式で、1施設の手術が集中し、件数をこなすことができるので、早期の減価償却に繋げることができる。

 初期費用だけでなく、維持費用も年間で2000万円かかるとされる。人口知能(AI)を搭載した自律的なロボットではないため、術者はダヴィンチ手術の技術を取得しなくてはらならない。日本ロボット外科学会などは医師の研修や習熟度に応じた資格制度を持つが、その指導者が不足していることも課題だ。保険適用が広がったからといって、稼働率ばかりを上げようとすれば、医療事故のリスクが高まる可能性もある。

 ダヴィンチには欠点もあるということで、日本企業では巻き返しを図り、それを凌ぐ手術支援ロボットを開発の途上にある。まず、ダヴィンチのアームは電気信号で制御されているために、力覚や触覚がない。手術の対象となる臓器は軟らかいため、当然ながら、力の掛け方にも慎重を期さなければならない。力覚がないダヴィンチの場合は、見た目の感覚に頼らざるを得ず、熟達してないと判断が難しい。

 東京工業大学発のベンチャー企業である、リバーフィールド社(東京)では、空気圧による制御技術を応用して、術者に力覚が伝わる技術を搭載した手術支援ロボットを開発中である。東レエンジニアリングやベンチャーキャピタルのジャフコから資金を調達して、20年の実用化を目標としている。

 もう一つ、ダヴィンチはアームが棒状で曲がらないという欠点もある。川崎重工業とシスメックスが共同出資するメディカロイド(神戸市)は、内視鏡や手術器具がしなやかに曲がり奥まで届くアームを備えたロボットを開発中で、こちらも20年に医療機器として承認されることを目指している。

ダヴィンチの特許切れも参入を後押し

 日本はものづくり大国である。医療機器の分野においても、消化器内視鏡において、オリンパスが世界で7割のシェアを持っている。しかし、手術支援ロボットでは、大きく後れを取った。そこには、前出したベンチャーキャピタルの存在以外にも、いくつか理由がある。まず、製造物責任法(PL法)があって、部品提供者も製造責任を負わなくてはならないことだ。また、承認のための治験もハードルが高いとされる。

 これらに加えて、ダヴィンチの持つ特許の壁がある。特に、ワイヤーによる鉗子先端の動きなどは、ダヴィンチが多くの特許を押さえている。

 だが、15年以降、基幹となるワイヤーの特許切れを皮切りに、徐々に周辺の特許も期限切れを迎える。これが更なる日本企業の参入を後押しするはずだ。

 低価格とシンプルさの両立、日本が持つハイテク技術のブランド化が実現すれば、日本のみならず世界で低侵襲手術ができる可能性がある。先行する2社のロボットには大きく期待がかかる。リバーフィールド社のロボットでも、ダヴィンチの半額程度を目指すということで、それなりに医療機関には高額の投資であることは変わらない。動向を見守りたい。

 世界一早く超高齢化が進む日本は、とりわけ真剣に低侵襲手術にこだわる必要がある。高齢者は、臥床する期間が長引けば、合併症やなどのリスクが高まる。低侵襲手術であれば、早期に起き上がったり食物も摂取したりできるようになる。国産の手術支援ロボットが、日本の課題を克服し、外科医不足にも解を与えるようなものであってほしい。

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