部署の代表が参加する衛生委員会が
健康の保持・増進を担う
──平本智也氏
ドトールコーヒーでは現在、健康の維持・増進のための組織体制は、人事部が中心になっています。人事部が企画立案をし、社内相談窓口と社外相談窓口、各部署から選出されたメンバーによる衛生委員会、それに産業医と連携して社員の健康を保ち、安全に働くことができる体制作りを行っています。
まず、社内か社外の窓口に相談し、社内なら人事や労務担当が対応、社外ならカウンセリング資格などを持ったメンバーが相談を受けます。産業医は本社では精神科医、工場は内科医となっています。
ただ、こうした体制を取ったからといって、すぐに問題解決に結び付くわけではありません。採用から職場環境、評価、育成などの人事プロセスとしてうまく回っていかないと心身ともに職場で働くのは難しくなります。
また一般職制度を導入し、時間的制約のある社員に柔軟に対応する制度を設けております。主に、育児や介護を事由として地域限定や固定時間制という働き方の選択を可能にすると同時に、メンタルヘルス不調による休業も視野に入れています。
評価・改善では衛生委員会を活用することになります。健康被害予防や健康保持増進、労災対策を行い、他にも分煙対策やAED(自動体外式除細動器)の設置なども進めています。ここでストレスチェックの促進も行い、現在、当社では健康診断受診率が100%、ストレスチェック回答率が95%、メンタル疾患による労災退職は0%となっています。
ただ、気になるのはストレスチェックで高ストレス判定者や予備軍が出ていることです。結果として出たものは受け止め、原因がどこにあるかをきちんと把握し、改善していくことが必要です。
そうした点を改革するには、挑戦、実践、創造ができる職場環境へ変えていけることが大切だと考えています。そのためのキーとして衛生委員会を掲げています。今後は委員会の充実を図り、いろいろなプランが出してもらえる環境を、人事部も協力して作り出していくつもりです。
社員の公私の情報を集め、
愛情を軸とした対策を講じる
──畑 敬子氏
私の会社は規模が大きくないので泥臭く、手作りの施策でメンタルヘルス不調を未然に防ごうとしています。寺田倉庫は、普通の会社に比べて経営判断などが速く、そこが会社としてのメリットであると同時に、社員のスキルやメンタル面に乖離が生じやすい面もあります。それでも、メンタル不調者は、1%未満となっています。それは、仕事だけでなく家庭や個人の性格、要因を分析し、個別の取り組みを行っているためだろうと思います。
例えば、健康プログラムの導入。社員健康化プログラムとしてパーソナルトレーナーを招き、肩凝り体操などを行っています。この講座は参加費無料です。また、デンタルドックとして予防歯科の導入。お母さん社員、外国人社員も多いので多様な働き方を推進。業務改善として力を入れているのが、「いつでも個人面談」と「年3回の全社員面談」。最初は嫌がられましたが、今では面談が日常化していて、そこで社員の悩みや問題などが分かってきます。
もう一つ、特徴的なのは未来プログラムです。一人ひとりに合わせて実施するプログラムですが、ここでは一つの事例を紹介します。
20代の女性社員。真面目で性格は良いが、コミュニケーション力が低い。当時、うつに近い状態に陥っていました。そこで、彼女に合わせてプログラムを運用しました。問題の根は仕事にあるのか、性格なのか、あるいは家庭環境なのか。自分自身の過去から未来にかけて分析し、自分自身を知るようにしました。0歳から今まで思い出せることを書いてもらうことで、成長期の愛情不足が要因の一つと分かりました。専門家と連携し、カウンセリングを行うとともに私達は彼女としっかりと向き合い、愛情をもって接することを続けました。彼女の変化は驚くほどです。今では社内でも活躍する優秀な社員に変貌し、役職も年収もアップを果たしました。
これまでの経験から、管理者が心の病に関する知識を持つことの大切さを感じています。そして、人事部だけでは良くなりません。社内の各部署とのコミュニケーション、社外の専門家との連携、それで一人ひとりに合った施策を講ずる。「組織は人なり」をモットーにやっていきたいと思っています。
尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表)「これは皆さんに質問です。先ほどドトールの平本様から高ストレス者が出ているというお話がありましたが、皆さんの中にも高ストレス者が多いと感じる会社はありますか。手を挙げてください(5人ほどが手を挙げる)。これだけいるのですね」
原田義昭・ 「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」国会議員団会長(自民党衆議院議員)「会社の人事というのは、ポストなどを考えるのが仕事かと思っていましたが、社員の個性をしっかりと把握して、いろいろな問題に対応しなくてはならないのですね。感銘を受けました。それで、寺田倉庫の畑さんに質問ですが、ストレス問題と少し話はずれますが、ユニークな経営をされているトップの方はずっと同じなのですか」
畑「名称のように寺田家がオーナーです。ただ、今の社長は会長の40年来の友人で、とてもエネルギッシュで、ユニークな社長です」
杉本実季・九州屋 総務人事部「平本様にお尋ねしますが、社内窓口と社外窓口への相談の割合はどのぐらいでしょう。また、うちも全国に店舗がありますが、相談をどう受け取るのがいいのか悩んでいます。メールなどを使っているのでしょうか」
平本「社内相談窓口は5、6年前から始め、社外は2年前からです。社内だけの時の相談は数件でしたが、相談環境を広げたことによって社外窓口も合わせて年間70件になっています。あと、飲食業の場合、店舗から相談のためのアクセスを気軽にすることは難しいため、携帯電話や自宅のパソコンからでもメールで申し込める体制を取っています」
遠田千穂・富士ソフト企画 企画開発部部長「私の会社は特例子会社なので障害者の方が200人ほどいます。うち半数が精神障害者です。自殺願望を持つ人もいるのですが、そうした人達の自殺予防には人事部などが巡回されてやっているのでしょうか」
畑「私が以前に勤めていた防衛省では、自殺担当をしていました。専門医や上司と連携し、個人のことを深掘りしていくしかないでしょう。人事は情報戦だと思っています。スタッフが回って、職場で相手の顔を見て予兆を感じられるようにするのが一番です」
堀川恵里・店舗流通ネット 管理総括本部人事課「畑様の話された未来プログラムの事例で、どのような対応をしたかもう少し詳しく、具体的に教えていただけますか」
畑「私は人事において愛情を大事にしています。ですから、彼女に愛情の欠落を感じた際、とにかく意図的に話しかけたり、ボディタッチをしたりしました。この時はメディカル・ビー・コネクトの瀬尾大さんに相談し、分析とカウンセリングを実施してもらいました」
瀬尾大・メディカル・ビー・コネクト代表取締役社長「カウンセリングなどによって、その女性は周囲を全て敵だと考えていることが分かりました。それは幼い頃の家庭環境などが影響しています。職場だけでなく、プライベートでも周りを敵視していました。そういうことを畑さんに伝え、咀嚼してもらいました。私達も情報が大切だと考えていますので、いかに情報を把握できるかが、メディカル不調を未然に防ぐための重要な方策でしょう」
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