マウントサイナイ病院
ニューヨーク市マンハッタン区にあるマウントサイナイ病院(写真①、写真②)は総合病院・医学教育病院である。1852年にユダヤ人のための病院として開業し、160年以上の歴史を持つ。また、同市周辺で七つの病院を運営するマウントサイナイ・ヘルス・システムという病院ネットワークの基幹病院でもある。
同病院はマウントサイナイ・アイカーン医科大学(写真③)に併設されている。同大は1963年に設立された時はマウントサイナイ医科大学という名称だったが、米国の投資家で持ち株会社アイカーン・エンタープライズの創業者あるカール・アイカーンが2億ドルを寄付したことを称え、2012年に現在の名称に変更した。
所在地はマンハッタンの高級住宅街で有名なアッパー・イースト・サイド。自然光を取り入れた病床数1144床の新しい病院として生まれ変わっている。平均在日数は5.5日で、近年では予防や外来に力を入れている。
ちなみに、最高経営責任者(CEO)は心臓麻酔科医で、今でも手術に入っているという。
予防という点では、日本でも行われているポピュレーション・ヘルスマネジメント(集団健康管理)に力を入れている。すなわちデータを収集、分析し、評価していくことで病気を予防しようということである。
例えば、転倒リスクの予測モデルを作ったりしている。患者のリスクの予測については、米国では入院費用がとても高額になるため、具体的には患者へのエンパワメント(自らの力を自覚して行動できるようサポートすること)を行うことによって、「病院を使う可能性が高い患者への介入」、あるいは「再入院をいか防ぐか」という観点でのプログラムを行っている。
在宅医療(往診)においても、昔ながらに医師が訪問することもあるが、最近ではコストの問題もあり、ボランティアを使って服薬状況のチェックをしたり、入院相当の重症な患者に対して頻回に看護師が訪問したりといったことを行っているという。
病院の様子
新しい病院の設計は、パリのルーブル美術館ナポレオン広場の「ルーヴル・ピラミッド」を設計した建築家が行ったという。特徴は救命救急患者が11万人(そのうち20〜25%が入院するという)で、手術は年間4万件、うち半分が外来手術だという。
循環器分野に定評があり、心臓手術とPCI(冠動脈インターベンション)を合わせると、年間約1万5000件をこなしているという。心臓ICU(集中治療室)の構造も非常に近代的である。二つの部屋の間にナースステーションを置き、1人の看護師が二部屋を監視しながら入力出来る環境になっている。そして、カーテンを付けていない。
また、クリティカルケア(生命の危機的状態〈クリティカル期〉にある重症患者に対して集中的な観察とケアを施す看護)の全部門にICUを置くという組織変更を行っている。そのため、各ICUのスタッフがラピッドレスポンスチーム(RRT:院内で最も患者に接する機会の多い看護師・リハビリスタッフなどから何かしらの懸念がある場合、気軽に相談出来るチーム)として他のICUのサポートにすぐに回ることができるという特徴がある。
心臓ICUには集中モニターが必要な患者やカテーテル治療後の患者が入院しており、日本のような基準はないが、実際には2対1看護のような体制をとっている。電子カルテは米エピック社のものを使用しているが、紙も多少使用しているという。また、病院の地図をスマホで紹介するサービスも行っている。
がん治療と病院の戦略
がん治療においても力を入れている。がんセンターでは、「ベンチからベッドサイド」、すなわち研究から臨床への応用がすぐ行うことをミッションに、研究も非常にアクティブに行われている。
例えば、胃がんの外来治療に関しては、47の診察室、70の治療室を持ち、1日当たり約150人の患者を診察している。研究においては250前後のプロトコールの試験を行っているという。
医療レベルにおいては、『USニュース&ワールド・リポート』の2017年の全米病院ランキングで18位に入っている。診療分野では老年医学が3位、消化器が8位、循環器内科と心臓手術が9位、腎臓科が10位にランクされている。遺伝子の分野でも定評があり、ビッグデータの解析も進んでいる。
マウントサイナイ・ヘルス・システム関連では、Sema4というベンチャーが2017年にスピンアウトした。また、1890年にユダヤ教正統派の人々によって設立されたベス・イスラエル・メディカルセンターも、マウントサイナイ・ヘルス・システムの一員である。
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