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未来の会

眼科疾患をスクリーニングするAI

眼科疾患をスクリーニングするAI
産学連携で開発、眼科医少ないミャンマーでも貢献

医師不足や医師の地域偏在が社会問題化する一方で、超高齢化で眼科疾患に罹患する高齢者数の増加が予測される。このような状況下、AI(人工知能)を活用することで、スクリーニングのサポートにより眼科医師の業務負担を軽減するとともに、眼科がない自治体でも眼科疾患の早期発見と眼科への紹介を行えるよう、眼科疾患の診断を支援するスクリーニングプログラムの開発が産学連携で進められている。

 2月13日には、石田昌宏・自民党参議院議員主催の石田まさひろ政策研究会と一般社団法人医療振興会の共催で、「医療分野におけるAI活用勉強会」が参議院議員会館で開かれ、その最新状況が公表された。第1部では、「保健医療分野におけるAI活用の展望」との演題で、厚生労働省大臣官房厚生科学課の伯野春彦・医療イノベーション企画官が講演、保健医療分野のAI活用の全体像を示した。眼科領域におけるAI活用においては、慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授のグループ、株式会社オウケイウェイヴ(東京都渋谷区)、MieTech株式会社(東京都墨田区)が連携して、AIによる眼底写真で眼科疾患の診断を支援するスクリーニングプログラムの開発を進めている。第2部では、この3者がそれぞれ発表した。

六つの重点領域で開発が進む

 第1部で伯野氏は、保健医療分野でAIをどのように活用していこうとしているのかについて、厚労省の取り組みを紹介した。

 「保健医療分野におけるAIの活用により期待出来ることが三つあります。一つ目は、どこでも最先端の医療を受けられるようになること。二つ目は、医療従事者や介護従事者の負担が軽減すること。三つ目は、創薬ターゲットをAIに分析させることで新たな治療の創出に繋がることです」

 AI開発に当たっては「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」を作り、AI開発を進めるべき重点領域について検討した。我が国が強みを発揮できる分野であること、我が国が解決すべき課題を持つ分野であることという両面から重点領域を絞り込み、選定。それが①画像診断支援②診断・治療支援③医薬品の開発④ゲノム医療⑤介護・認知症⑥手術支援である。

 この6分野で重点的に研究開発が進められていくことになる。手術支援のように実用化まで時間がかかると考えられる分野もある。一方で、画像診断支援はディープラーニング(深層学習)との親和性が高く、いくつかは実用化の段階にあるという。画像診断支援といっても画像の種類は様々で、放射線画像、病理、内視鏡、皮膚科・眼科・超音波などは研究開発が続けられている。

 「民間の開発スピードは速い。現在は正解付きの画像をたくさん集めている段階ですが、国の限られた研究機関だけにAI開発を任せるのではなく、民間企業も含め、様々な関係者が集めた情報を活用できるようにし、AI開発をやって頂いた方が良いと考えています。そこで、来年度には、多くの関係者に集まって頂き、収集したデータの活用のあり方などを検討する会議を立ち上げる予定です」

 保健医療分野におけるAI開発は、民間の力を活用することにより、スピード感を持って進むことになりそうである。

 第2部ではまず、眼科領域におけるAIの開発と活用について、慶大医学部眼科学教室の結城賢弥・専任講師(医学博士)が「医療AIに関する研究及び可能性」と題する講演を行った。

 結城氏によれば、失明の原因となる疾患は、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、加齢黄班変性などに限られているという。これらの疾患は、医師が網膜を直接観察するか、眼底写真を撮影して画像を調べることで、早期に発見することができる。そして、早期発見し、その段階で適切な治療を行いさえすれば、失明は回避できるのである。

眼科以外でもAI活用が進む可能性

 「健康診断で眼底写真を撮り、それを眼科医が見て判断するわけですが、医師の負担が大きいし、人件費もかかります。結果が出るまでに日数も必要です。ここにAIを活用できれば、ということを考えています。糖尿病性網膜症に関しては、ディープラーニングを用いることで、検出が可能になっています。他の疾患についても、これから研究が進んでいくと考えられます」

 眼の疾患は、網膜を含めて病変部が見えるため、AIとの相性が良いのだという。眼科医が行ってきた診断のための時間やコストを、削減することが可能になると期待されている。

 次いで、オウケイウェイヴの兼元謙任・代表取締役社長が登壇、「AI開発に関する現状と医療への可能性」と題する講演を行った。同社を1999年に設立、日本初で最大級のQ&Aサイトである「OKWAVE」を2000年から運営してきたが、それがAIの開発に繋がっているという。

 「たくさんの人が質問し、たくさんの人が答える。困ったことと、それへの対応策を、インターネットで集めていたわけです。このやり取りを医療に繋げることで、AIが専門家のサポートをできるのではないか、と考えています」

 こうして開発されたAIが、眼底写真を解析して診断をサポートできるようになった。現在は、精度を上げていくための作業が続けられている。

 続いて登壇したのは、「みえ続けるテクノロジー」をキャッチコピーに、眼の疾患予防のために設立されたMieTechの杉野佳明・代表取締役。「AIと生活をつなぐ社会実装に向けて」をテーマに話をした。杉野氏は2017年に同社を設立。慶大医学部眼科学教室、オウケイウェイヴの協力を得て、AIによる眼底写真のスクリーニングプログラムの開発を進めている。

 「失明する人を1人でも減らそうという目的で起業しました。世界には眼科にかかれない人が多く、失明する人の8割は、眼科にかかりさえすれば救えると言われています」

 不足する眼科医に変わって、AIが眼底写真によるスクリーニングを行うことができれば、早期の受診を促すことに繋がり、失明を減らすことができると考えられるわけだ。

 最後に、MieTechと連携してミャンマーで医療支援活動をしている林健太郎医師が、ミャンマーにおける眼科医療の現状を現地からの中継で紹介した。ミャンマーの人口は約5000万人だが、眼科を専門とする医師はわずか350人しかいない。糖尿病や高血圧などの生活習慣病により、糖尿病性網膜症も増えているため、失明を防ぐには早急な対策が必要な状況だという。

 「ミャンマーをはじめとするアジアの発展途上国では、眼底を診断できる医師が圧倒的に不足しています。しかし、AIを活用することができれば、この問題は解消できると考えています」

 中継ではAIによる眼底写真のスクリーニングの模様も映され、海外でも活用できる実例が示された。発展途上国はもちろん、日本でも医師の偏在により、眼科医が不足している地域がある。そういった地域の失明防止を考えても、眼科分野でのAIが実用化することの意味は大きいという。

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