立地条件の適否など転用推進に不透明な点も
人口減少などにより全国で増加する空き家を老人ホームやグループホームの福祉施設などに転用しやすくするため、規制を緩和する建築基準法改正案が通常国会に提出されている。具体的には、耐火基準や用途変更の手続きの規制を緩和するというもの。改正案が成立すれば、1年以内に施行する方針だ。
国土交通相の諮問機関・社会資本整備審議会で議論し、建築基準法改正の方向性を1月末までにまとめ、政府は3月6日に建築基準法改正案を閣議決定した。
空き家は人口減少や解体に費用がかかることなどから増え続け、総務省の住宅・土地統計調査によれば2013年時点で全国に約820万戸に上る。1983年に330万戸、93年には448万戸、2003年には659万戸と年々増加。30年間で約2・5倍に上る。
空き家の増加に伴って、様々な社会問題が発生している。09年に国交省が全市町村に空き家がもたらす悪影響を調査したところ、多い順に「風景・景観の悪化」「防災や防犯機能の低下」「ゴミなどの不法投棄などの誘発」「火災の発生を誘発」「悪臭の発生」が続いた。周辺環境に与える悪影響は多方面にわたっており、空き家対策が急務となっている。
2030年頃までは75歳以上の人口が増え続け、福祉施設整備のニーズが高まり続けることが見込まれることから、国交省は空き家から老人ホームやグループホームといった福祉施設などに転用を促すことで、こうした問題に対応できると判断した。
15年度の国交省調査では、用途変更された約3200件のうち既に約10%が福祉施設に転用されており、実績面で裏付けられている。
ただ、住宅を別の用途に転用する場合には、耐火対策の強化など規制が厳しい。住宅によっては必要な改修工事の費用が建て替えと大差ないケースがあり、転用があまり進まないという問題が指摘されていた。
そこで改正案では、3階建て以下の戸建て住宅を福祉施設などに転用する場合、延べ床面積が200平方㍍未満であれば、核になる木材を石膏ボードで囲むなど耐火建築物にする厳しい対策を求めない。その代わり、警報設備やスプリンクラーの新設だけで可能とする。これによって従来よりも費用が格段に安く済むようになる。
また、耐火基準などを確認する建築確認が必要な要件を緩和する。現行の建築確認制度では、延べ床面積が100平方㍍を超える建物で用途変更する際に必要だが、その対象を200平方㍍超のケースに大幅に緩和する。これにより、全体の9割で建築確認が不要になる見込みだ。
国交省の担当者は「人口減少で空き家が増えており、特に都市部での増加傾向が著しい。高齢化の進展でニーズが高まる福祉施設などへの転用が進めば、空き家対策が進む。改正案がその一助になれば」と法改正の狙いを強調する。
しかし、空き家が福祉施設の利用者に使い勝手の良い立地にあるかなどの課題もあり、国交省の狙い通りに転用が進むかは不透明な点もある。
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