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第97回  抗うつ剤後の性機能障害PSSD

第97回  抗うつ剤後の性機能障害PSSD

 日本では、ほとんど知られていないPSSD(抗うつ剤使用後の性機能障害)1)を、薬のチェックTIP誌75号2)で取り上げたので、その概略を紹介する。元の記事は、「抗うつ薬の功罪」や「ファルマゲドン」など、医薬品の害が起こる仕組みを幅広く掘り下げた著書のある英国の精神科医David Healy(デイビッド・ヒーリー)が主宰するhttps://rxisk.orgの最近の記事である。なお、一般的にSSRIといわれる抗うつ剤は、ドパミンも増やすため選択的(selective)と言えないので、私はSRI(セロトニン再取込み阻害剤)と呼んでいる。ここでもSRIを用いる。

抗うつ剤による性機能障害は高頻度

 抗うつ剤を使用している人のほぼ100%が、何らかの性機能障害を経験する。SRIやSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害剤)、三環系抗うつ剤を初めて服用した場合に、多くの人が30分以内に性器のしびれを自覚する。

PSSD とは何か?

 PSSD(post-SRI sexual dysfunction)とは、抗うつ剤服用後に起こる医原性の性機能障害状態をいう。SRI やSNRI、三環系抗うつ剤を中止しても、性機能が服用前の状態に戻らない状態のことである。男性にも女性にも起こる。数日間使用しただけでも発症し、持続期間は数か月あるいは数年、ひどい場合は永続することがある。

症状

・性器の感覚低下/麻痺

・勃起障害/女性の湿潤低下

・オルガズム低下/消失

・性欲低下

・性的刺激への反応低下

・頭部が硬くならない/夜間勃起消失・低下

・乳首の感覚低下

診断

 簡単な検査による診断方法はない。病歴をきちんと聞いて、特徴的な症状や、発生状態を丁寧にとらえ、他の原因を除外して診断する。PSSDを知らない医師が多く、精神疾患と誤診され、治療のために薬剤が追加されることも少なくない。男性ホルモン補充ではPSSDvは回復しない。

高頻度だが、気付かれず予防法も治療法もない

 発症頻度は極めて高く、気付かれ難い。服薬を止めれば回復するとの誤解、症状をパートナーとの関係の問題と誤解、医師に言いにくい、医師が否定する、などが原因になり得る。

 PSSDの発症要因は不明であり予防方法はない。抗うつ剤を漸減し中止しても防止出来ない。有効な治療方法もなく、中止後ある程度改善しても完全に元に戻ることはない。永続する人もいる。

 うつ病とPSSDの鑑別の特に重要な2ポイントは、

1. 抗うつ剤開始直前まで性機能が正常。

2. 開始後性機能障害があり、中止後も回復しない。

処方の段階で利害を厳密に判断すべき

 離婚、失業、自殺にも繋がりかねない抗うつ剤は、処方の段階での厳密な判断が必要である。中止後にある程度改善しても、完全に元に戻ることはない。永続する人もいる。処方の段階で、得られる利益と起こり得る害を厳密に判断すべきである。


参考文献
1) https://rxisk.org/post-ssri-sexual-dysfunction-pssd/ 
2) 薬のチェックTIP.2018:18(75):16-17

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