米国のトランプ大統領による小規模核兵器の使用条件緩和、韓国の平昌五輪開催と大きな国際ニュースが続いた2月、東京・永田町では自民党の一派閥の「お家騒動」が衆目を集めた。田中角栄元首相から続く名門・平成研究会(額賀派)で、参院議員全員がボスである額賀福志郎元財務相の会長退任を求めてクーデターを起こしたのだ。一見地味な内紛だが、派内の「新安倍派」と「反安倍派」の対立構図であり、秋の総裁選の行方に影響しかねないと党内をピリピリさせている。
額賀派のドタバタが表沙汰になったのは1月上旬のこと。同派参院を率いる吉田博美参院幹事長が「1月末まで」と期限を切って、会長退任を求めたのが始まりだ。
吉田参院幹事長は同派の参院議員21人の総意として「会長を交代しないのなら、参院全員が派閥を抜ける」と通告。これを拒否した額賀氏に対し、参院側は1月25日の派閥総会をボイコット。額賀氏側は回答期限を延ばして、延長戦に持ち込んだ。しかし、参院側が2月9日にも集団離脱の構えを見せている状況下、額賀氏は派閥分裂を回避するため、前日の8日、吉田参院幹事長と会談し、会長を退任する意向を伝えた。
石破・竹下〝山陰連合〟の可能性
吉田参院幹事長らがクーデターを起こした背景には、「額賀元財務相がボスのままでは、秋の総裁選はなし崩しで安倍晋三総裁(首相)の3選に流れ、総裁候補を出すという派閥本来の役割が失われてしまう」との危機感があったとされる。田中、竹下登、小渕恵三、橋本龍太郎と首相を輩出してきた名門派閥にとって、総裁候補を擁立出来ないような会長は不要だということらしい。
確かに、二階俊博幹事長、石破茂元幹事長、野中広務元幹事長(1月26日死去)、野党では民主党の鳩山由紀夫元首相、岡田克也元代表、自由党の小沢一郎代表ら錚々たるメンバーを輩出した派閥にあって、額賀元財務相の埋没感は否めない。
加えて、派内には、茂木敏充経済再生担当相、加藤勝信厚生労働相ら「親安倍派」ばかりが重用される額賀体制への不満が充満していた。「親安倍派」と「反安倍派」の路線対立が内紛の底流にある。
自民党幹部が語る。
「背後にいるのは、『参院のドン』と称された青木幹雄元参院議員会長だろうな。幹さんは、兼ねてから、額賀さんの指導力不足に不満を持っていた。吉田氏らが推す後任会長候補は竹下亘総務会長だ。幹さんは、竹下元首相の秘書だった。竹下さんの地盤を継承した亘さんを担いで、名門派閥の立て直しを図ろうというんじゃないの。視野にあるのは秋の総裁選であり、ポスト安倍であることは間違いない。それにしても、今年は平成研絡みの話題が多いね」
言われてみれば、死去に際し、大手の新聞がこぞって追悼文を掲載し、大きく扱った野中元幹事長しかり。政党職員として秘書が支持者に線香を送ったことが発覚し、野党に追及された茂木経済再生担当相も同派出身だ。そこにお家騒動が重なり、平成研はにわかに脚光を浴びた格好なのだ。
100人以上の国会議員を擁した竹下派時代の面影はないとは言え、第3派閥の跡目争いに、総裁候補を抱える他派閥は神経を尖らせている。総裁選の構図が変わるかも知れないからだ。衆目を集めるのは石破元幹事長だ。
前述した通り、石破元幹事長はかつて額賀派に所属していた。石破派を結成したことで、関係は悪化したが、昨年から接近が目立つようになったという。青木元参院議員会長や竹下総務会長と関係修復を進め、昨年秋には石破派のパーティーで竹下総務会長が石破元幹事長の総裁選出馬にエールを送っているのだ。
危機感を募らせているのは、岸田文雄政調会長率いる岸田派だ。中堅議員が語る。
「宏池会の流れを汲む岸田派と、田中派から続く額賀派は共に保守本流を標榜してきた。端的に言えば、軽武装・経済重視の路線。護憲意識が強いところも似ている。岸田会長が総裁選で手を組むとすれば、最良のパートナーの一つだ。額賀派が竹下総務会長に代替わりし、石破元幹事長を推す構図になれば、岸田会長は石破元幹事長に敗れる可能性が強くなる。もし、敗れるような事態になれば、将来展望はない。出馬を見送らざるを得なくなる」
総裁3選に自信を深める安倍支持派内でもこんな声が漏れている。幹部の一人が語る。
「老獪な青木さんのことだから、いろんなケースを想定しての一手だと思うよ。石破元幹事長は鳥取県、竹下総務会長は島根県。参院選で合区になった地域だ。協力関係が出来れば、地方へのアピール力は相当なもんだろう。ただ、石破元幹事長と組むことのリスクも重々承知している。代替わりを契機に、親安倍でも反安倍でもないフリーハンドを得るのが狙いだろう。安倍首相に対しても、総裁候補を抱える他派閥に対しても、その存在感を十分に示し、低迷する派閥を浮上させようというのだろう。その先は、状況次第、千変万化するんだろうな、きっと」
地方・弱者重視で安倍3選に待った?
自民党長老は少し異なる見方をしている。
「野中さんが亡くなり、昭和は本当に終わったという感じだな」と言い終えて、一息つくと、一気に話し出した。
「今回の騒動には、かつて、金丸信元副総裁、竹下元首相、今や野党になった小沢代表らと一緒に政界を牛耳った青木さんの竹下派への思慕の念を感じる。『金竹小(こんちくしょう)』と悪口を言われたが、あの派閥の原点は、豪雪にはばまれ、厳しい生活を強いられた地方への熱い思いなんだ。野中さん流に言えば、弱者への思いやり。安倍さんの政治は、時代の要請にかなったものなのだが、取り残されている人達もたくさんいる。それは青木さんらの地盤である山陰であり、北海道、東北であり、沖縄だろう。やや独善的だが、スピード感があって国際的な安倍流政治が見落としてしまった所に光を当てよう、それを最後の仕事にしようと青木さんは思ったんじゃないかな」
安倍支持か否かを巡る一派閥の内紛に「地方への思い」はいささか言い過ぎと思うが、昭和世代の政治家である青木元参院議員会長がかつての同朋・野中元幹事長の死にただならぬ思いを感じたのは確かだろう。
額賀派が新竹下派に変わったところで、ただちに安倍3選がはばまれるというものではない。しかし、強者をより強くすることで、弱者にも恩恵を及ぼすというアベノミクス発想は、強者を強くするだけにとどまっている。格差は拡大する一方で、高齢者ら社会的弱者の悲惨な事故はとどまるところを知らない。自民党長老が指摘するように新竹下派が目指すのが地方重視なら、共感者は存外多いかもしれない。
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