2017年に厚生労働省で多忙を極めた部署として挙げられるのは、子ども家庭局だろう。3月に待機児童の定義の見直し、6月には待機児童解消に向けて新たな目標を設定した「子育て安心プラン」の策定、年末にかけては衆院選で自民党が公約に掲げた幼児教育・保育無償化の政策パッケージの取りまとめ作業など、1年を通して「難題」を抱えていたからだ。その陣頭指揮を執ったのが、吉田学・子ども家庭局長だ。
吉田氏は、愛知県出身で、京都大学法学部を卒業後、1984年に旧厚生省に入省した。保険局企画課を振り出しに、幹部への登竜門といわれる広報室長や保険課長などを歴任。野田佳彦前首相の首相秘書官も務め、消費税を10%に増税して社会保障政策の充実と財政再建の両立を目指す「社会保障と税の一体改革」を担当。
民主党政権で誕生した厚労省出身の首相秘書官は安倍晋三首相が継続して採用しなかったため、省内では数少ない首相秘書官経験者だ。官邸から省内に戻ってからは、保険局で医療介護連携を担当する官房審議官などを務め、旧厚生省出身の84年入省組では最速となる局長ポストに就任した。
身上は、粘り強い根回し力だ。特に永田町のキーマンに食い込む。自民党厚労族の田村憲久・元厚労相(現政調会長代理)には重要政策の変更があれば真っ先に相談するなど、会館事務所に足繁く通う。もう一人のキーマンである公明党の桝屋敬悟・政調会長代理は元山口県庁マンで、吉田氏も同県庁へ出向経験があることから近しい間柄となった。首相秘書官時代は旧民主党政権時代で、野党にも気脈を通じる。
省内でも「気配りが出来る細やかな人」(中堅職員)との評判で、「待機児童など重要な政策は、優秀な巽慎一保育課長(93年入省)に任せている」が口癖で、部下を持ち上げることも欠かさない。
政策も関係者に配慮した立案が目立つ。塩崎恭久・前厚労相は児童福祉分野に関心が高く、17年の通常国会に児童相談所(児相)に対する早期の司法関与を強める改正案を提出するよう指示した。児相や司法の現場は及び腰だったが、塩崎氏が引き下がらず難航。法務省や児相に掛け合い、家庭裁判所が都道府県に対して児相を通じて保護者を指導するよう勧告出来る制度とし、一定の納得を得た。
子育て安心プランも、待機児童解消の目標年限を巡り、19年度末か20年度末にするかで加藤勝信・1億総活躍担当相(当時、現厚労相)らが対立したが、「遅くとも」という文言を入れ、20年度末で決着させた。
省内で異例の首相秘書官を経験した「事務次官候補」の吉田氏だが、真価が問われる1年だった。幼児教育・保育無償化を巡っては、対象となる施設の線引きを巡り、認可外保育施設は対象外とする方針を主導。加藤氏からは「野党に追及されたら国会でもたない」と強く叱責され、修正を余儀なくされた。最終的には有識者会議の結論に委ね、夏まで先送りしたが、やや味噌を付けた形になった。
鈴木俊彦・保険局長や樽見英樹・官房長ら83年入省組に優秀な人材が集まっており、「事務次官ポストを回す可能性もある」(省幹部)との声もある。予断を許さない状況だ。
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