2017年末に厚生労働省の検討会がまとめた「医師偏在対策」は、当初の構想から大きく後退した。とりわけ、僻地などでの勤務経験を医療機関の管理者になれる要件とする案や、診療所の開設制限といった目玉案が骨抜きにされ、厚労省内部からも「実効性を問われる」(幹部)との声が漏れる。
▽医師不足地域での勤務経験を国が認定し、院長人事の際に評価する▽ただし、その際の院長人事とは、医師派遣機能などを持つ地域医療支援病院の院長に限定▽医師が偏っている地域での無床診療所の開業規制は先送り——。
17年12月18日、厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会」で了承された「第2次中間とりまとめ」には、都道府県の主導で医学部の定員に「地域枠」を設けられるようにすることなどが盛り込まれた。厚労省は18年の通常国会に医療法などの改正案として提出する。ただ、16年9月の「(第1次)中間とりまとめ」にあった、「自由開業・自由標榜の見直し」などの強制色の強い改革案は、「将来に向けた課題」へと棚上げされた。
18年度の医学部定員は9419人と、07年度の1・24倍に増えた。とはいえ、地域の偏りは解消されていない。14年度の人口当たり医師数では、最多の京都府と最低の埼玉県では2倍の開きがある。外科医や産科医が不足する「診療科の偏り」も依然続いている。
同検討会の医師需給分科会は16年9月、「特定地域・診療科での一定期間診療」を診療所も含めて院長になるための要件とする案を提示。特定の診療科医が足りている地域での保険医の配置や開業を規制する案の検討も求めた。推進派の委員は「保険医は保険料と税金で生活が成り立つ『準公務員』。住居にかかわらず国民には等しい医療を提供する必要があり、一定程度の規制には従うべきだ」と強調していた。
しかし、塩崎恭久厚労相(当時)の肝いりで発足した大臣の私的検討会が似たテーマの議論を始め、雲行きは変わる。「塩崎検討会」は17年4月、「個々の医師の能動的・主体的な意向を重視する」とした報告書をまとめ、「反規制色」を鮮明にしていた。
「需給検討会」は9月から偏在対策の検討に入ったものの、塩崎検討会の座長でもあった渋谷健司委員(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授)は再三、「医師の自発性」重視を求めた。地方からの突き上げを食った日本医師会(日医)も呼応。検討会で日医副会長の今村聡委員は「一足飛びに強制に向かうのではなく、医師側の自主的な調整」を訴え、結局、2次の中間とりまとめは強制色の薄い内容に落ち着いた。全国自治体病院協議会の邉見公雄会長(赤穂市民病院名誉院長)は「地域偏在が解消出来ず、お産が出来ない地域が増える」と指摘している。
医師不足地域での勤務実績が院長になるための選考基準となった地域医療支援病院(543病院)は、全病院の6・4%。しかも、対象はその一部だ。また、勤務実績を「評価する」とあり、曖昧さも残る。
厚労省幹部は「『僻地勤務をしないと院長になれない』のではなく、『勤務実績があるのが望ましい』という捉え方も可能」と解説する。
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