ケアプランの策定、適切な治療方針の提示等々
人工知能(AI)の医療・介護分野への活用が進む中、医療・ヘルスケア分野の最新技術や先進事例を話し合う国際会議「Health 2.0 Asia-Japan 2017」(主催:メドピア)が2017年12月5〜6日、都内で開かれた。6日の「AIで描く未来」をテーマにしたセッションでは、AI関連製品を開発している企業の経営者や幹部から事例発表や議論が行われた。
介護分野ではAIが「革命」を起こす
創薬などライフサイエンス分野のAIを開発する目的で設立された「ライフ インテリジェンス コンソーシアム」代表を務める奥野恭史氏(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻ビッグデータ医科学分野教授)が司会役、AIベンチャーのエクサウィザーズの春田真会長がパネリストとしてサポートを担当、デモとして企業人3人が発言。
まず、ケアプランを作成出来るAIを開発したシーディーアイの岡本茂雄社長は、介護におけるAIの活用について「介護分野における革命」と語った。現在、介護の現場ではケアマネジャーが要介護者と対面してケアプランを作成する。身体機能がどれぐらい衰えているのか、日常の意志決定がどれぐらい出来るのかといったデータをAIに読み込ませ、ケアプランが策定される。AIだと、人が作成するよりも圧倒的にスピードアップが図れる。しかし、重要な点はそうした「効率化」ではないと岡本氏は言う。
「本当に重要なのは、AIは要介護者が1年後にどのような状態になるかも予測してプランを作ることが可能だという点。身体機能というのは、必ずしも加齢によって衰えていくばかりではなく、適切な介護、リハビリによって向上することもあります。そうしたプランを作っていける。AIを使うことで、機能補填型の介護から未来志向型の介護へと転換出来るようになりました」
全国には620万人の要介護者がいるが、状態が改善されるのは1割程度でしかない。他の要介護者の何割かは、実は「介護のし過ぎ」で可能性を消し去ってしまっている。岡本氏は、AIを使って未来志向型のケアプランを作れば、半数の300万人は改善出来る可能性があるという。
「1年後を予測するには、回復しそう、元気になりそう、という人の直感に近い曖昧な判断が必要。AIは、ディープ・ラーニングによってそれも出来るようになったことが大きいでしょう」
既に、AIによるケアプラン策定は愛知県豊橋市で行われている。8年間に蓄積された10万件の介護保険データをAIに学ばせ、市内の約200人の高齢者のケアプランを作っている。そこでAIに新たな学習をさせることで、さらに高度な活用に耐えるものに進化していくという。
岡本氏は、介護分野でAIを活用していく上での今後の課題として「人」を挙げる。AIそのものも介護分野で学ばせ、育てなければならない。すると、AIに関心をもつ介護関係者がいなくてはならない。そうした「人」を呼び込み、根付かせることが大事になると話す。
続いて発言したのは、日本アイ・ビー・エムの溝上敏文・ワトソンヘルスソリューションズ部長。同社では、米IBMが開発した「ワトソン」をArtificial Intelligenceという意味のAIではなく、人の能力の一面を補うためのAugmented Intelligence(拡張知性)という意味のAIとして位置付けている。クイズ番組で勝利を収めた技術をがん診断に使っていきたいという最先端の米国医療研究機関との協業で生まれたのがWatson for Oncologyであり、米国だけでなく最近はアジア諸国での使用が急速に増加しているという。
「定期的に修正されるがんの診療ガイドライン(米国で言えばNCCNガイドライン)、新しく認可される治療薬と関連するバイオマーカー情報、世界中で行われている臨床試験、そうした大量の情報から一人一人の患者に関連する情報だけを抽出し、活用していくことは医療の現場では非常に困難です。ワトソンはそうした課題を克服することに挑戦し、医師を助けることを目標としています」
日本で増え続けるがん患者数、そして遺伝子情報や医療画像なども含め多様化・大容量化する医療情報、次世代の診断支援システムはそうした環境で医師を助け、医師が最終的に治療方針を決定していくことになるだろうという。
多忙な医師たちを支援することも
最後は、東京大学発のベンチャー、エルピクセル代表取締役の島原佑基氏が発言。同社では、医療における画像診断を支援するAIを開発している。過去に比べてCT、MRI、内視鏡など画像診断をする機会は圧倒的に増えているのに、それを読み取れる医師の数は横ばい状態である。それだけ負担は大きくなっている。
同社の開発した医療画像診断を支援するAI技術「EIRL(エイル)」は、脳MRI、胸部X線、乳腺MRI、大腸内視鏡などの動画像を解析し、瞬時に、そして高い精度で異常を見つけることが可能である。
「脳動脈瘤では、5〜7mmの大きさになると破裂する危険が高まります。EIRL(エイル)は脳MRIから2mm未満の瘤も高い精度で見つけることを目的としています」
医師達のダブルチェック、トリプルチェックなどを経た確実なデータを大量に学ばせていくのと同時に、データの少ない症例であっても画像から異常を検知する独自技術を活用していくことになる。
このシステムを用いれば、専門医のいない医療施設であっても、オンライン上にデータを送り、そこで解析することも出来る。より確実に、スピーディーに診断出来ることになる。
「今後は画像診断の支援だけでなく、医師達のレポート作成も手助け出来るようにしたいと思っています。出来るだけ医師の負担を軽くすることが、医療技術の向上にも繋がっていくはずなのです」
島原氏は、日本は欧米に比べて、医療診断でAIをどう活用するか、規制も含めてコンセンサスが固まっていないとも感じている。医師との連携も深めつつ、早急なガイドライン作成が行われるべきだという。
LEAVE A REPLY