新薬の開発意欲を削ぎ、外資の海外移転を招く懸念も
厚生労働省は、薬価制度の抜本改革案を公表した。改革案の大きな柱は、2021年度からは2年に1回だった価格改定を毎年実施し、後発薬が普及する先発薬の薬価は6年間かけて段階的に後発薬の水準まで下げることなどだ。高止まりしているとの批判が根強い薬価の価格を適正化して、増え続ける薬剤費の膨張に歯止めを掛けるのが狙いである。
政府が薬価制度の抜本改革に乗り出したのは、患者1人当たり年間3500万円かかる抗がん剤「オプジーボ」といった超高額薬の登場がきっかけだ。
オプジーボは14年度に患者の少ない皮膚がんの治療薬として承認されたが、肺がんなどにも効くことが分かり、対象患者が急増した。市場規模は年31億円から1500億円に跳ね上がったため、安倍晋三首相が出席する参議院予算委員会で野党議員が追及したことから注目され、昨年末に菅義偉官房長官が主導して厚労省が抜本改革に取り組むことが確認された。
薬価の毎年改定を導入するのは、市場の実勢価格を素早く反映して薬価の高止まりを防ぐためだ。21年度から毎年改定する方針で、焦点となる対象品目は20年中に決める。新たに改定を行う年では、市場との流通価格の差が大きい薬を主な対象とするなど対象となる薬はある程度絞られる方向だ。
試算では、上位約2割を引き下げ対象とした場合、500億〜800億円▽約4割だと1200億〜1800億円▽約5割では1900億〜2900億円の削減効果がある。
ただ、厚労省幹部は「5割に広げることはない」としており、対象は限定的になる見通しだ。
高止まりを防ぐため、先発薬の大幅な引き下げも行う。先発薬の特許が切れ、販売から10年が経過した後発薬は引き下げの対象とする。後発薬の普及率が80%を超える場合は、10年が経過した時点で後発薬価格の2・5倍まで下げる。その後は段階的に下げ、6年かけて後発薬と同水準にする。普及率が80%未満の薬も同様に2・5倍まで下げ、10年かけて後発薬の1・5倍まで下げる。
オプジーボのように、公的保険の適用後に別の治療にも使えるようになった薬で、年間販売額が350億円を超えた場合、価格を1回当たり最大で25%下げられるようにする機会を年4回設ける。
画期的な新薬について一定期間薬価の維持を認める「新薬創出等加算」も、対象を厳格化する。現状は厚労省の開発要請に応じた新薬などが対象で、事実上、全ての新薬に加算されているため、画期的な新薬を開発しているかや、海外より薬の承認が遅れる「ドラッグラグ」が起きていないかなどで評価する。
医療費のうち、薬剤費は9兆円に近づいており、10兆円超えも時間の問題とされている。今回の改革案は増え続ける薬剤費の抑制策の一環である。
ただ、こうした方針に製薬業界からは「要件が厳し過ぎて、新薬の開発意欲が削がれる。外資系製薬企業は、海外に資本を移すのではないか。後発薬メーカーもその優位性が失われる可能性がある」と懸念する声が出ている。厚労省には今後も製薬業界に与える影響を注視していくことが求められる。
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