インキュベーター、再生医療、遠隔診療、医療データの収集・分析……
医療系ベンチャーの育成に乗り出している厚生労働省の主催で「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット2017」が10月に横浜市内で開かれた。医療系ベンチャーと製薬会社や研究機関、金融機関のマッチングを図るもので、若きベンチャーの担い手4人によるセッションには、多くの関係者が集まった。
医療系ベンチャーのブームを俯瞰してみると、2000年頃に第1世代が誕生。10年頃が第2世代、現在を代表する彼らは第3世代と言える。
まず、日本医療機器開発機構(東京都中央区)の取締役CBO(最高業務責任者)、石倉大樹氏がトップを切って発言。石倉氏はこれまで医療分野の起業・新規事業開発を手掛けてきた。同社は医療機器インキュベーター事業を軸に、医療機器の研究開発・製造販売も行っている。
「医療機器といっても言葉の定義が広がっていて、AI(人工知能)やソフトウエアを駆使したプログラム医療機器も含まれるようになっています」
同社は医療系ベンチャーへの支援とともに、大手医療機器メーカーの海外拠点の立ち上げにも携わっている。医療機器の市場規模が拡大している中、アメリカがシェアの半分を占めており、石倉氏は、アメリカ市場に食い込むことが日本の医療機器の販路を広げるための重要な戦略となると指摘する。
内視鏡領域など特定の製品ではアメリカでもシェアを取っているものの、他の製品では厳しい状況だという。
「医療機器の販売では現場の医師と密な関係を築き、物理的にも精神的にも距離感を小さくしていかないと、現場のニーズに合った製品が作れない。これまで、リスクの高い医療機器製品に対しては、日本の医療器メーカーはその挑戦をしてこなかったのではないでしょうか」
石倉氏はそうした「密な関係」を出来るだけ早く作り、製品の開発・販売に結び付けることが大事だという。医療機器分野は一旦トップを取ると大きなシェアを占めることが可能だ。石倉氏は先陣を切るようなプレーヤーを日本で育てる気構えでいる。
細胞医薬で世界に先駆けた開発を目指す
続いて、ガイアバイオメディシン(福岡市)の代表取締役である倉森和幸氏が、再生医療ベンチャーとしての抱負と展望を語った。倉森氏はいくつもの企業の経営者を経験してきた。同社は九州大学の研究成果に独自の技術とノウハウを加え、難治性疾患の患者へ革新的な治療法の提供を目指している。具体的には細胞治療、特にがん治療におけるナチュラルキラー(NK)細胞を培養し、そこから細胞医薬を開発しようとしている。
「NK細胞による製品は、医療ニーズはあるものの安全かつ効果的なものをどこも作り得ていません。ですから、我々の薬事開発により日本発のデファクトをこの分野で獲りたいと考えています」
実際、NK細胞の論文は世界的にも十数本しか発表されていない。また、世界を見渡しても、この分野で競合しているのは6社だけで、日本では同社のみだという。それだけNK細胞は培養も難しく、製品化も困難とされている。だからこそ倉森氏は可能性の大きさを感じている。
医療系ベンチャーの第3世代としての役割を考えた時、倉森氏は医療従事者だけに通じる言葉ではなく、一般のビジネスマンにも分かる言葉を使うことが大事だという。専門家と一般人との間の垣根を取り払うことで理解を得て、人材や資金の確保を見込んでいる。真の成功はどこか1社だけの成功に留まらず、再生医療が産業構造化し、継続的な発展に繋がる業界標準を生み出していくことと考えている。
医療データを深層学習システムで分析
3人目の医療系ベンチャートップの原聖吾氏は医師として働いていた。しかし、臨床医として価値を産み出せる広がりに限界を感じ、医療の仕組みを変革しようと、情報医療(東京都千代田区)を立ち上げた。より進んだAIの技術である深層学習(ディープラーニング)を医療と組み合わせることで、遠隔診療なども可能となる。世界的なトレンドとしても、AIによる医療画像の認識や診断は注目されている。
「我々が手掛けているのは、一つはスマートホンを活用した遠隔診療システムの提供。もう一つは、医療データを持っている大学や研究機関、企業と深層学習の技術を使い、分析結果などを出していくこと」
遠隔診療システムは「curon(クロン)」という名称で、病院と患者がオンライン上でやり取りし、患者は診断を受け、処方箋まで出してもらえる。対面診療の予約を取ることも可能だ。特に症状が軽い場合は、患者は病院まで足を運ばなくても医師の診断を受けられる。
また原氏は、膨大な医療データを分析していく能力は、ベンチャーでも十分に戦える分野だという。
「深層学習などの技術は数人のエキスパートの力量によって開発されます。素人は手が出せません。ただ、医療のデータについては研究機関や企業などがなかなか外に出さず、集積が難しい分、我々が価値を出せる部分も大きいと思います」
そうしたデータの活用で、特に日本が優位に立てるのは画像解析やレセプトなどの領域だという。例えば医療施設のCTやMRIの台数は海外と比べて人口比では圧倒的に多く、データそのものの量が多い。原氏はそこに活路が見出せるはずだと言う。
最後に、司会役も務めたヘリオス(東京都港区)の代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)、鍵本忠尚氏がベンチャーへの思いを語った。
自身は医療ベンチャーとしては第1.5世代という。九州大学病院で眼科医として勤務していたが、使える薬がない患者を見て、治療法を生み出すため起業を決意。2005年にアキュメンバイオファーマを創業、眼科手術補助剤BBG250を開発。11年には日本網膜研究所を設立、13年にヘリオスに社名変更し、15年に東証マザーズに上場。現在は中核的な事業としてiPS細胞を用いた再生医薬品の開発を推進している。
鍵本氏は、医薬開発において、慢性疾患に効果が期待される細胞医薬品への関心が高まる中、日本の高い技術力が生かせるという。
「どの医療系ベンチャーも、根のところのビジョンはシンプルだと思います。つまり、今までは治せなかった病気を治したい、と。それが可能となれば、ナンバーワンの企業にも成長可能です」
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