このままでは介護保険法施行以降で最多になる見込み
急速な人口の高齢化で成長産業と目される「医療、福祉事業」だが、倒産に追い込まれる例は少なからず存在する。
民間の企業信用調査会社、東京商工リサーチによれば、2017年1〜9月の同業種(病医院、鍼灸院、老人福祉・介護事業など)の倒産は累計186件というハイペースで、このまま推移すると、年間の倒産件数は介護保険法が施行された2000年以降で最多になると見込まれている。
大型の倒産が増加したために、負債総額326億700万円は前年同期比82.5%増となっている。そして、全体では負債1億円未満が155件と83.3%で、前年に比べて大幅に増加している。
業種別の「病院・医院」は22件(前年同期比29.4%増、前年同期17件)で、倒産理由は販売不振が13件と約6割に達する。倒産には、破産(事業消滅型)もあるが、「病院・医院」は再建型の民事再生が6件だった。
岐阜の誠広会は負債総額87億円
歯科を含む病院・医院は、年間30件余りが倒産に至っているとされるが、今年上半期に目を引いた大型倒産が、岐阜県北西部で最大規模の医療・介護施設を展開していた医療法人社団誠広会だ。6月に民事再生法の適用を申請しているが、負債総額は87億円に達するとされる。
岐阜市内に開院した個人クリニックである平野医院をルーツとし、1980年に法人化しており、核となる平野総合病院(199床)、岐阜中央病院(372床)を運営している。
積極的な拡大路線を取り、介護老人保健施設に加えて、訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、地域包括支援センターという3軒の介護事業所を展開していた。
さらには、関連法人である学校法人誠広学園には、医療職を養成する平成医療短期大学がある。また、やはり関連の社会福祉法人誠広会は特別養護老人ホームなどを複数運営している。
地域では有力な医療・福祉グループとして認識されており、医療法人誠広会はピークである2011年3月期には年間約88億5700万円の売上高を計上していた。
地域に医療施設が相次いで進出したことなどから業績が低迷し、16年3月期には売上高が76億4200万円まで落ち込み、2億2540万円の赤字を計上して、負債総額が資産総額を上回る債務超過の寸前まで追い込まれた。そこへ建物新築や医療機器などの設備投資がかさんで借入金への依存度が高まり、17年3月期には3億2653万円という大幅な債務超過に陥り、倒産への道を余儀なくされた。
医療コンサルティング会社であるメディヴァがスポンサーとなり、同法人の経営支援をすることになった。同社では、継続的な医療・介護の提供と従業員の雇用維持を行い、地域に貢献することを強く意識して、スポンサーの名乗りを上げたという。
法人の事業は通常通り続けており、グループの各法人も事業を継続している。金融機関からの融資を受けることによって、財政基盤を確保していく意向だ。
増えている民事再生法による再建
病院の倒産であっても、一般の企業の倒産と手続き的に異なる点はない。例えば、誠広会が選択したのは、2000年に施行された民事再生法に基づく再建であり、病院では最近増加している再生手法だ。
この方法では、債務の支払いをいったん停止した上で、一部の債務を免除しつつ長期的に負担を減らした分割の弁済計画を立てて返済していく。
法の適用範囲が広く、株式会社などの会社組織だけでなく、個人の債務整理にも適用することが出来る。破産のように債務が全て免除になるわけではないが、それなりのメリットがある手法である。
特徴的なのは、裁判所の介入で、原則として裁判所により監督委員が選任され、それらの監督の下に、債務者が事業主体の地位や財産の管理権を維持継続したままで事業などの再建を行う。
資産査定や再生計画は裁判所により認可を受け、経営者はそれに基づいて、一部の債務カット後の残債の支払いなどの責任を果たさなくてはならない。具体的には、例えば、債務を7割カットしてもらい、残る3割を年1回ずつ5年間分割払いするといった形を取る。
破産申し立て後も、通常通りの事業を続けることが出来るために、患者や従業員に大きな迷惑をかけることなく進められるのは、大きな利点となる。地域医療を守っていくという大義名分があるために、弁済はギリギリであっても、金融機関などの債権者が協力をしてくれる可能正が高いとされる。
長年赤字の場合は、債務超過に陥って新規の資金調達が困難になった際でも、民事再生法などの法的手続を選ぶ前に、裁判所が介在しない私的な整理手続を行っている病院も多いとされる。
これは、債権者と債務者の合意により債権債務を処理するための手続きで、この手続きだけでなく、会社を解体する清算型の手続きもあり、時間を稼ぐことが出来る。
私的整理では、地域経済活性化支援機構(REVIC)を活用するスキームもある。同機構は、07年に解散した産業再生機構とほぼ同様の機能を持ち、金融機関からの債権の買い取りや出資、経営者の派遣も行っている。18年3月末が支援先を決める期限で、23年に解散する予定だったが、それぞれ5年延期された。
また、DDSという手法で再生を図ることもある。これは「Debt Debt Swap」の略で、債権者が既存の債権(Debt)を別の条件の債権に取り換える(Swap)手続きで、通常、金融機関が既存の貸出債権を他の一般債権よりも返済順位の低い劣後ローンに切り替える手法である。順位が低いとは言っても、最終的に支払うべき負債であり、それを含めた再生計画が必要になってくる。
もちろん、経営者は、こうした外部の力を借りて再生を図るより前に、いち早く経営リスクを察知し、業績回復に努め、資産売却などで、経営改善を図ることが大切なのは言うまでもない。病院の倒産は、患者を筆頭にして、そのステイクホルダーの多さから地域への影響は大きい。
なお、倒産にはカウントされないが、病院の休廃業・解散も増加している。18年4月の診療報酬・介護報酬の同時改定まで半年を切ったが、医療費・介護費とも抑制策が続く中では、統廃合を含めた厳しい道のりが待ち受けていることは覚悟すべきだ。
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