プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、強力な胃酸抑制作用があるが、その割に差し当たっての害反応が少ないこともあり、H. pylori除菌や逆流性食道炎、少量アスピリンによる潰瘍防止、重症患者のストレス潰瘍防止などの目的で用いられることが多く、高齢者にもしばしば用いられ過剰使用の様相を呈している。2014年のPPI使用者数は主要先発5製品だけで、胃潰瘍用の8週間コースを2360万人が受けたことに相当すると推計され、過剰使用を裏付けている。
骨折やクロストリジウム・ディフィシル(C. difficile)感染症誘発の害は、添付文書にも記載され、注意が喚起されているが、肺炎を増加することは添付文書には記載がない。
しかし2003年以降、多数の疫学調査で関連が報告され、米国消化器病学会(ACG) のガイドライン(13年)に記載され、15年に26件の疫学調査をメタ解析したシステマティックレビュー 1) が報告された。
その結果を、作用機序とともに、薬のチェックTIP誌No.73 2) に掲載した。要旨を紹介する。
最新のシステマティックレビューで危険度1.5倍
外来患者でのPPI使用と市中肺炎との関連に関する症例-対照研究など33研究が検出され、そのうち重複を除く26件をメタ解析の対象とした。外来PPI療法の併合リスク(オッズ比やリスク比、ハザード比の混合)は1.49(95%CI: 1.16-1.92)であった。
15件で統計学的に有意の肺炎リスクの増加が報告されていた。
治療開始早期が危険−処方は厳密に
市中肺炎のリスクは、PPIの使用開始後1か月目までの危険度が特に大きかった(オッズ比 2.10; 95%CI: 1.39-3.16)。全体で有意でなくても、7日以内に限るとオッズ比3.8と有意となる報告もあり、短期間ほど肺炎リスクは高いようである。
原著者らは、これらの結果から、代替療法がある場合や、PPI使用による利点が不確かな場合には、このリスクを認識した上で、PPIの処方を見直す必要がある、としている。適切な結論と考える。
PPIによる感染症誘発の機序
PPI使用によって胃酸が抑制されて細菌が増殖することが一般的に取り上げられているが、それよりも、もっと重要な機序がある。PPIは胃壁のプロトンポンプだけでなく、V型プロトンポンプ(V-ATPase)をも阻害するからである。V型プロトンポンプは、体の全ての細胞に普遍的に存在し、腎細胞や破骨細胞、好中球やマクロファージ、精巣細胞、ある種の腫瘍細胞の形質膜に存在し、それぞれ、尿の酸性化や骨吸収、免疫系細胞内の適正pH保持、精子成熟、腫瘍細胞の浸潤に重要な役割をしている。
従って、V型プロトンポンプを阻害することで尿の酸性化などが阻害されれば、肺炎だけでなく、腎盂腎炎や膀胱炎など尿路感染症も増加し得ること、骨代謝が障害されれば骨折に繋がることが、容易に推察可能である。いずれにしても感染症は増える。
実地診療では
PPIは使用開始1か月以内に肺炎罹患の危険度が高い。医師は、害について患者に説明し、利益と害を十分考慮して処方の可否を判断し、処方後も経過観察が重要である。胃潰瘍には8週、十二指腸潰瘍には6週の使用制限を順守しなければならない。
参考文献
1) Lambert AA et al. PLoS One. 2015;10(6):e0128004
2) 浜六郎、薬のチェックTIP、17(73):114-115.
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