厚生労働省は2018年度の介護報酬改定で、介護を受けている人の状態を改善させた事業所の報酬を手厚くする考えだ。介護保険について、自立支援を柱とする制度への転換を目指す首相官邸の意向を踏まえている。しかし、改善を見込めない人が受け入れを拒まれかねず、関係者の間には根強い慎重論もある。
パラダイムシフトを起こす──。昨年11月、成長戦略を議論する「未来投資会議」で、議長の安倍晋三首相は介護保険制度の大転換を語り、要介護者について「介護がいらない状態までの回復を目指す」と豪語した。
今の介護報酬体系は、サービス利用者の要介護度(要支援1〜2、要介護1〜5の計7段階)が高いほど事業者の収入が多くなるように設計されている。利用者の要介護度を低くすると身入りが減る格好で、事業者が積極的に自立支援に乗り出す動機付けにはなっていない。
こうした仕組みを見直し、要介護度を改善させた場合の報酬を厚くして、事業者を自立支援の介護へと導くのが安倍政権の狙いだ。成長戦略の一環として、医療・介護費の抑制に繋げて企業の負担を軽減したり、介護離職を減らしたりすることを意図している。
自立支援重視への転換が一定の効果を生むのは確かだ。東京・渋谷区の特別養護老人ホーム「杜の風・上原」の齊藤貴也施設長は、「自立支援ケア」の成果を未来投資会議で報告。オムツを使わず、トイレに誘導することなどを基本としたケアにより、入所後に介護保険認定更新した利用者63人中、30人(48%)の要介護度が改善し、24人(38%)は要介護度を維持していたという。齊藤氏は「利用者さんがどんどん元気になり、職員自身も楽しく働けるようになる」と効果を語る。
国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授は、自立支援の推進によって肺炎患者や骨折が減り、その分医療費を理想値として8700億円程度削減出来る、と推計している。政府は21年度の介護報酬改定では、全国の介護サービスの内容を集めたデータベースを活用し、自立支援を進めた事業者への優遇を本格的に始める意向だ。
政府はこれらに先行し、来年度から介護状態の改善に成果を上げた自治体への交付金を上乗せする。医療費を抑えた自治体向けに、同じような仕組みを作ることも検討している。
だが、成果を上げた自治体を優遇する仕組みに対しては、「高齢者が自立を強いられる」と心配する事業者も少なくない。さらに、要介護度を改善した事業所を評価するとなれば、重度の人の受け入れ拒否や改善出来なかった施設への「罰則」にも繋がりかねない、との不安が出ている。
全国老人福祉施設協議会(石川憲会長)は昨年末、リハビリの強要などを懸念し、要介護度の改善を唯一の判断材料とすることを批判した意見書を厚労省に提出している。自立支援自体は重視する厚労省内にも「多角的な評価をする必要があるが、簡単ではない。要介護度の改善を絶対的な尺度にすれば、サービスを受けられない人が出てくる」(幹部)との声が少なくない。
LEAVE A REPLY