厚生労働省関東信越厚生局の北島智子局長(56歳)が8月12日早朝、亡くなった。東京都港区のマンションで、精神疾患を抱える弟(52歳)に包丁で刺されての死亡。「ショックで、ショックで……本当にショックで……」。北島さんを知る厚労省の医系技官は絶句した。
北島さんは日本大学医学部を卒業後、埼玉県庁を経て1988年に厚生省(当時)に入省。健康局、障害保健福祉部、生活衛生・食品安全部などで医系技官として数々の施策に携わった。ほんわかした雰囲気にして、実は酒豪。仕事では主張すべきは主張する。今年7月に、さいたま新都心にある関東信越厚生局に局長として赴任したばかりだった。
北島さんの前任者は局長を最後に退官しており、北島さんもそろそろ官僚生活の仕上げに入っていたはずだ。「夫は埼玉県庁に務めており、子供はいなかった。夫婦で旅行に行くのが趣味」(関係者)といい、縁の深い埼玉での勤務は充実していたはずだ。そこへ襲った突然の悲劇。警視庁担当記者は「親族間の殺人事件、しかも犯人は精神疾患で通院歴があり、捜査状況はあまり伝わってこない」と話す。北島さんの母親は健在だが、息子が娘を殺すというあまりに悲劇的な事件にその心中はいかばかりか。
精神・障害保健課長時代には、精神病院に長期入院する患者の地域移行も担当した北島さん。厚労省には家族に障害を抱える職員が多いといわれるが、同僚は「北島さんから家族の話を聞いたことはなかった」と口を揃える。家族の事情を胸に秘め、厚生行政に辣腕を振るっていた女性医系技官の星。
北島さんのご冥福をお祈りしたい。
「医療行為と刑事責任」
密室議論に広がる疑心
刑事責任を問われる医療行為とはどのようなものなのかを研究する厚労省の「医療行為と刑事責任に関する研究会」が8月9日、初会合を開いた。
現在、「医療事故」の一部は刑法の業務上過失致死罪に問われ、医師が刑事訴追されることもある。だが、どのような医療事故が刑事事件化されるのか、基準はない。そこで厚労省は2016年度から、医療行為と刑事責任について考える準備会を設置し、議論してきたというわけだ。
8月に始まった同研究会は準備会を発展させる格好で出来たもので、座長は準備会と同じ武蔵野大学法学部の樋口範雄教授。医療者側として、日本医師会や全日本病院協会のメンバーが参加している。
医療担当記者によると、「研究が目的なので内容は非公開。法医学者や警察OBなども参加し、純粋に学問的見地から過去の事例を検討している」という。ある程度の結論が出たところで報告書は出るかもしれないが、議事録などの議論自体が表に出ることはないとみられる。
そうなると気になるのが、この議論が「厚労省主導」の下で行われているという点だ。厚労省には何が刑法の対象となるかを決める権限はないが、医師にとってはそれ以上の影響をもつ「行政処分」という名の医師免許の与奪権限を持っている。
ある医療担当記者は「医療事故調査制度が始まった時、厚労省幹部は『報告しない医療機関や未報告を繰り返す医療機関には行政処分で何とか出来ないか』という主旨の発言をしており、医療事故に対して国が関与していきたい姿勢を感じた」と証言する。
となると、医療事故調査制度に加え、同研究会も「行政処分」の範囲拡大に使われる恐れがある。こうした医療関係者の疑心に応えるには、議論の過程を公開する必要があるのではないか。
医系技官が力を盛り返す厚労省
〝改革〟を通じて旧に復する策
かつての医系技官バッシングが遠い昔のことように、厚労省では医系技官の力が復活している。その象徴が次官級ポストの「医務技監」の新設だ。就任した鈴木康裕氏は、慶大出身の医系技官で、保険局長や世界保健機関(WHO)局長などを歴任し、診療報酬や介護報酬の改定を担当した経験がある。
労働相は、医療政策に思い入れがあった塩崎恭久氏から、働き方改革を重視する加藤勝信氏に交代したが、厚労省としては2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定などの医療政策を、医務技監新設を背景に清々と進める体制が整った。省内の次官級ポストは他に「厚生労働審議官」があるが、事務次官と厚生労働審議官のポストに旧労働省職員が就いても、旧厚生省側は医務技監ポストを押さえることが出来る体制でもある。
医療政策を巡っては、看護配置重視からコメディカル配置を診療報酬で評価したり、看護師を地域包括ケアシステムの担い手にしたりする案が出るなど、多職種を巻き込んだ医療体制の構築、医療費抑制策が取られようとしている。また、病院が減少し、診療所が増加する一方、医師数が増加する状況下、今後、医師の診療所勤務や開業が増えることが予想される。新専門医制度では、新専門医を育てる基幹施設に大学病院が中心となることで、医局の復活が予想される。
ある医療人は「厚労省は、会員数増加を目指す日本医師会や、復権を目指す大学医局を通じ、診療所や病院をコントロールする体制を整えつつある」と話す。〝改革〟を通じ、旧に復するわけだ。
アリナミン折り込み広告で疑念招く
「セルフメディケーション税」対象表示
武田薬品工業と言えば、大衆薬「アリナミン」のイメージが強い。同社の100%子会社で、大衆薬や健康食品などを手掛ける武田コンシューマーヘルスケアがアリナミンを販売しているが、売上高約800億円の半分はアリナミンシリーズが占めている。
アリナミンには錠剤と栄養ドリンクがあるが、訪日外国人観光客の爆買いの減少などで、2017年3月期では錠剤が前年同期比で4・6%減と厳しい状況に陥った。
盛り返しのためか、同社は7月下旬、全国紙にアリナミンの錠剤に関する折り込み広告を入れた。製薬業界関係者は「武田がアリナミンの折り込み広告を入れるのは極めて珍しい」と驚く。
4頁物の広告には、4月に投入した新製品「アリナミンEXプラスα」のPRを見開きで展開。「アリナミンA」と「アリナミンEXゴールド」の広告を各1頁で掲載していた。
これに対して、前出の関係者は疑問を呈する。「最後の4頁目に当たるアリナミンEXゴールドの頁の下に『セルフメディケーション税 控除対象』のキャッチが付いている。最後に表記することで、広告で紹介された三つの製品全体が控除対象であるようにも見える。実際控除されるのはアリナミンEXゴールドだけなので、誤解を招く広告だ」と指摘する。
「タケダ健康サイト」でセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の対象製品名を具体的に列挙しているように、なぜ折り込み広告では明確な表示をしなかったのか。不明瞭さこそが狙いだったのかと勘繰りたくなる。
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