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大きな効果見込めないバイアル抗がん剤「残薬」活用策

大きな効果見込めないバイアル抗がん剤「残薬」活用策
民党派は廃棄による無駄に、過剰請求を題視

イアル(注射剤を入れる瓶)抗がん剤について、厚生労働省は9月から、患者に必要量を投与した後に余る「残薬」活用策の検討に着手する。「オプジーボ」など高額の抗がん剤が増える中、自民党行政改革推進本部(以下、行革本部)から「1000億円を節減出来る」と尻を叩かれているためだ。しかし、厚労省内からは「本音では後ろ向き」との声も漏れてくるほどで、現状では大きな効果が見込めるメドは立っていない。

 「時間稼ぎだろ!」「同じ薬を使う患者を集約すれば、効率が上がるじゃないか」

 6月6日、行革本部の医療費見直しチームの会合では、出席した議員が居並ぶ厚労省保険局や医薬・生活衛生局の幹部らに容赦ない批判を浴びせた。

 この日、厚労省側は最後まで残薬の使用に乗り出すとの言質は与えず、代わりに、2017年度中に①安全性を確保する手立て②廃棄率の減少度③医療現場に混乱をもたらさないか④小分け包装の開発の可能性——などを調査・検討する考えを示した。

 それでも、行革本部長の河野太郎・外務相らは消極的な厚労省の姿勢に納得せず、さらなる対応を求めて突き上げた。

 残薬を巡っては、16年度の診療報酬改定で「高齢者らが飲み残す薬が約500億円に達する」との試算がクローズアップされた。しかし、バイアル製剤の残薬はまた別で、病院で使われる薬の話。

 使い残した抗がん剤の活用という考えが浮上している背景には、分子標的薬の登場以来、高額な抗がん剤が増え、廃棄する薬の費用も高額化していることがある。

 民間の調査会社、富士経済によると、14年の抗がん剤市場は8523億円。それが23年には1兆5438億円に増える見通しという。

抗がん剤の廃棄無駄は年間800億円

 バイアル抗がん剤は、患者の身長、体重などに応じて細かく投与量が定められている。使う人によって薬が残ることはやむを得ず、細菌による汚染防止策として残薬を廃棄する例は多い。ある抗がん剤の場合、身長170㌢、体重60㌔の患者への1回の投与量は2・1㍉㌘。3㍉㌘瓶のうち、0・9㍉㌘分は廃棄される。廃棄分の費用は5万円を超す。

 この無駄に行革本部は目を付けた。一部の肺がんなどに高い効果があるとされるオプジーボの市場規模は1189億円(16年)。ただ、約8%は廃棄されているといい、その無駄だけで90億円強に達する。他の抗がん剤も含めると年間に700億〜800億円が廃棄され、抗がん剤以外のバイアル製剤も含めた廃棄薬は1000億円程度に達する──。こうした慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆・特任教授の試算を基に、行革本部は厚労省を追及しているのだ。

 行革本部は、閉鎖式薬物移送システム(CSTD)を使って瓶内外の圧力を調整し、薬剤の変質や細菌の混入を防ぐ手法なら、残薬を次の患者にも安全に使用出来るとみている。本来CSTDは薬剤の飛散を防ぎ、医師らが抗がん剤に触れないようにするために使う。

 また、行革本部がターゲットに据えるのは、廃棄による無駄だけではない。バイアル製剤を使った医療機関による過剰請求が後を絶たない点も、槍玉に挙げている。

 バイアル製剤の保険請求方法について、厚労省は「使用量単位の請求」を原則とする一方、残薬の扱いは明確にしてこなかった。このため、医療機関側では「開封されたバイアルの薬剤は全て使用された」とみなし、廃棄が出ても廃棄分も含めて1瓶単位で保険請求するのが一般的となっている。

 さらに、1瓶分の薬剤を分割して複数の患者に使用した上で、過剰に薬剤費を請求している例もある。3㍉㌘瓶のうち、1人の患者に2㍉㌘を使い、別の患者に1㍉㌘を投与しておきながら、両方の患者に1瓶分ずつ使った形にする。実際は2人で1瓶しか使っていないのに、2倍の2瓶分を請求する手口だ。

 日本病院薬剤師会の13年のアンケート調査によると、全国のがん診療連携拠点病院のうち、18%はこうした「水増し請求」をしていた。逆に使用した分だけを請求していたのは5%止まり。使用量分だけを請求すると、残薬分が病院の持ち出しになるためとみられる。

 行革本部は「18%は無視出来るレベルではない」と厚労省に見直しを迫り、同省は7月18日、複数の患者に投与した時は1瓶単位ではなく、使用量単位で保険請求するよう通知を出す考えを示した。行革本部は「高額な抗がん剤の使用を特定の病院に集中し、使用量を保険請求するという原則を徹底し、残薬の有効利用を進めていく」(河野氏)としている。

「残り物の薬を使い回す文化が無い」

 厚労省は残薬の活用について、6月6日に同本部に説明した方針に沿って検討する。ただし、バイアル製剤の「分割使用」を進め、残薬を減らしていくには課題もある。まずは安全性だ。残った薬の適切な保存方法や、保存期間についての基準を作らねばならない。1瓶分の薬剤を複数の患者に投与するとしても、薬を全て使い終わるまでの期間は患者によって異なる。

 米国では、CSTDを使った場合、6時間以内なら残薬を他の患者に使用することが認められているが、厚労省は「米国の基準をそのまま日本に当てはめるわけにはいかない」と主張している。

 同省は、バイアル製剤を小瓶に分ける「小規格包装」の導入も研究するとしている。瓶の規格が増えると患者の体格に応じた量の規格が増え、廃棄される薬は確かに減る。だが、同時に製薬業界などのコスト増に跳ね返るのは必至。薬剤費の抑制効果が小さくなり、当初の導入目的に反する可能性もある。

 また、廃棄分も含めて全使用量とみなし、1瓶分を保険請求している医療機関にかかっている患者は、廃棄分の薬剤費まで負担していることになる。それが1瓶分を複数の患者に投与することを基本とするなら、最後に残った廃棄分の薬剤費を誰がどう負担するのかも決める必要が生じる。

 自民党内には18年度の診療報酬改定で、CSTDによって1瓶の薬剤を複数の患者に投与した医療機関への報酬上乗せを求める声もある。投与した分だけを患者に負担してもらう仕組みにすれば、廃棄される薬は減るし、少々報酬を上乗せしたところで患者の負担も減るだろう。

 しかし、残薬の有効活用に動いているのは「行革派」の議員が中心で、厚労族は深くタッチしていない。厚労省幹部は「安全性が担保されるなら、アイデアとしては悪くない」と評価しつつ、疑念も漏らす。

 「でもなあ……。きれい好きの日本人の特性からして、残り物の薬を使い回すなんて文化が広まるのかな」

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