2017年6月28日(水)17:00~18:30、衆議院第一議員会館多目的ホールにて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の第15回勉強会を開催いたしました。詳細は、月刊誌『集中』2017年8月号にて、事後報告記事を掲載いたします。
まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。
「1990年代後半から、日本の医療界では“患者=弱者”の視点を持ったメディアから逆風が吹くようになり、それに乗じて医療裁判が多く発生してきました。医療裁判は医療機関にとって大きな負荷となり、前向きな医療を行う力がそがれる状況が生まれています。今回はこの分野で活躍する弁護士の井上清成先生に講演をお願いしました」
続いて、当会国会議員団代表の原田義昭・衆議院議員にご挨拶いただきました。
「医療過誤の問題は、観念的にはわかるのですが、いざそれに取り組んでみると、非常に難しい分野であります。日本だけの問題ではなく、アメリカやヨーロッパ諸国でも、しっかりこの問題に取り組んでいます。本日の議論が、医療と法律という難しい分野を橋渡しすることになると期待しています」
当会国会議員団の三ツ林裕巳・衆議院議員からもご挨拶いただきました。
「群馬大事件、東京女子医大事件がありましたが、大学の医療者の話を聞くと、ガバナンスの問題が大きかったと話していました。病院の規模が大き過ぎ、きちんとフォローできなかったというのです。それが医師法改の改正につながりました。医師は人の命を助けることを職業にしているわけで、医療過誤が起きていいと考えている人はいません。医師をあまりにも犯罪者扱いするようなことがあってはならないと思っています」
今回の講演は、井上清成氏(井上法律事務所所長・弁護士)による『医療過誤をめぐる紛争の理論と実務』と題するものでした。以下はその要約です。
◎ 医療事故調査制度の現状
国家制度として医療事故調査制度ができ、1年半ほどになります。いろいろ心配はあったわけですが、うまく落ち着いて医療界も炎上せずにすんでいます。現在、医療事故の件数は、日本全国で月間30件ほどです。制度ができる前に医系技官が見込んでいたのは、その10倍ほどの数でした。しかし、運用面でのいわゆる「骨抜き」がうまくでき、そういったことにはなりませんでした。医療事故が起きたからといって、マスコミに報道されることもなく、静かに再発防止策を講じて終わりにする、といった運用が、今のところ確立されています。
◎ マスコミへの漏洩
群馬大学事件が火を噴いたのは、新聞報道がきっかけでした。大学としては調査し、遺族にも説明し、関係官庁にも説明し、丁寧に対応しているつもりだったが、公表する前に新聞で報道されたのです。内部から情報がもれていたようです。その後、群馬大学事件は、何度も報道が繰り返され、増幅していきました。情報が漏洩していたため、発表しようとすると記事が出る、ということが繰り返されたのです。
国家公務員で地方公務員でも、情報漏洩すれば秘密漏示罪になります。独立行政法人には、独立行政法人法や地方独立行政法人法があります。国立大学法人法もあります。これらの法律には、同じような守秘義務違反があります。医師と助産師には、刑法上の守秘義務がありますし、看護師には保助看法で守秘義務が規定されています。医師、助産師、看護師の守秘義務は、基本的に患者さんに関することに限定されますが、公務員法や独立行政法人法などにおいては、患者さんのことに限らず、秘密にすべきことを漏洩した場合には、守秘義務違反となります。群馬大学事件の情報漏洩は、それに値うるケースです。近年、医療界において、内部告発が当たり前のようになっていますが、それは危険な風潮だと思っています。
◎ マスコミによる紛争惹起
最近、マスコミをにぎわしているのは無痛分娩の問題です。次のような一連の報道が行われています。
2016年12月15日「愛媛・産婦人科重大事例に産婦人科医会が見解」(Medical Tribune)
2017年4月17日「麻酔使った『無痛分娩』で13人死亡…厚労省、急変対応求める緊急提言」(読売新聞)
4月25日「『無痛分娩』で女性死亡…大阪・和泉の産婦人科医、書類送検へ」(産経ニュース)
5月10日「『無痛分娩』妊婦死亡など相次ぎ…件数や事故状況、実態調査へ」(読売新聞)
5月19日「無痛分娩で医療ミス、妊婦死亡 刑事告訴へ」(神戸新聞)
5月27日「医療ミスで出産女性が死亡 神戸の産婦人科病院長を刑事告訴 業務上過失致死罪で」(産経新聞)
5月31日「『無痛分娩』全国調査へ 妊産婦死亡受け、産婦人科医会」(朝日新聞)
6月6日「帝王切開時の麻酔で母子に重度障害…報告せず」(報知新聞)
6月12日「無痛分娩の麻酔で母子に障害 京都の医院、別件でも訴訟」(朝日新聞)
6月12日「『母子植物状態は麻酔ミスが原因』本人と夫らが京都の医院を提訴、京都地裁」(産経新聞)
6月13日「『産科医1人だけの医院、許可しないで』無痛分娩で障害、●●女性の母が手記」(読売新聞)
6月23日「『無痛分娩』で妊婦や家族が知らない重大リスク」(ダイヤモンド)
このようにして、無痛分娩のいわばキャンペーンが行われているのです。ここで報道されているのは、大阪、兵庫、京都の3つの産科診療所における事故です。それぞれ何の関係もないのですが、同時期に報道されているのです。このようにマスコミにあおられれば、本当に医療過誤かどうかわからないものまで、実質、医療過誤の状態になってしまいます。
振り返ってみますと、群馬大学事件では、警察はまったく動いていません。民事訴訟も起きていません。厚生労働省は少し動きましたが、これは診療報酬に関して不正があったのではないかという問題です。つまり、刑事事件になっていないのはもちろん、民事事件にもなっていない。ではどんな事件だったのかというと、マスコミにさらされただけの事件なのです。これが群馬大学事件の実態です。
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