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未来の会

第13回 【アメリカ】ハワイから見たアメリカ医療⑴

第13回 【アメリカ】ハワイから見たアメリカ医療⑴

 「ハワイに視察」と言った途端、「いいなあ」と帰ってくる言葉が決まっているほど、リゾート地として定着しているが、今回はハワイ大学と、私が理事長を務める一般社団法人メディカルクオリティマネジメントアカデミー(MQMA)のワークショップのために出掛けた。そこでは、リゾート気分ではない厳しい話が交わされた。

オバマケアの医療提供者への影響

 米国の医療費は増加している。通称「オバマケア」は、2010年にバラク・オバマ大統領が署名して発効した医療保険制度改革法(Patient Protection and Afford-able Care Act)に基づく一連の改革である1)。とかく「皆保険を目指している」「民間保険(会社)を活用している」「成功か失敗か」といった話題が先行するが、医療機関はこの法の施行により、The Triple Aimが「Better Care、Better Health、Lower Costs」とされ、医療提供が量から質への変化を強いられている。具体的には下記のように解釈されている。

 This commentary is intended to discuss this mix of access and delivery reform in terms of its potential to achieve the Triple Aim: population health, quality, and costs. Final remarks will include the role of the US federal government to reform the American private health industry together with that of an informed consumer.1)

 Obamacare aims to bring down healthcare costs by providing more preventive and detection services.2)

 ポイントは国民のヘルスケアへのアクセスを提供者の改革とともに実行することであり、予防の重視である。また、民主党政権らしく政府の役割を強調している。

 具体的に言えば、出来高払い(FFS:fee for service) が中心であったところに人頭払い(Capi-tation)が取り入れられてきている。2011年には、メディケア(高齢者・障害者の公的医療保険)とメディケイド(低所得者の医療扶助制度)を運営する連邦政府機関のメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)内にメディケア・メディケイド・イノベーションセンター(CMMI)を新設し、提供したサービスの「量」ではなく医療の「質」に基づいて診療報酬を提供する改革が行われている。

 もちろん、メディケイドを中心に保険制度も改革された。メディケアの枠の拡大、既往症を理由にした保険加入拒否や病気を理由にした契約解除の禁止、保険の生涯上限の撤廃、保険料の決め方の制限などが決められ、医療提供者から見ると費用に合わない患者が多くなった。

 なお、保険会社が最低限カバーしなければいけない項目として、以下の10項目が決められた。

① 外来(通院など)

② 救急

② 入院(手術など)

③ 妊婦・新生児の看護(出産前後の看護)

⑤ 問題行動の治療を含む精神科、薬物使用障害の医療(カウンセリングや心理療法を含む)

⑥ 処方せん医薬品

⑦ リハビリおよびリハビリ用器具(けが、障害、慢性症状の回復や精神的、身体的機能の回復のための医療および器具)

⑧ 臨床検査

⑨ 予防、健康推進サービス、慢性病対策

⑩ 小児科

 高齢化に備え、プライマリケアや予防医療の充実も行われている。

 さらに大学病院や、地域医療ネットワークを指す「統合ヘルスケアネットワーク(IHN:Integrated Healthcare Network)」が、旧来は契約関係にあった医師を雇用してプライマリケアを提供し始めている。例えば、研究と教育を基に臨床と医療ケアを統合させた非営利医療機関のクリーブランド・クリニック(本拠地・オハイオ州)が薬局・コンビニチェーンのCVS(本社・ロードアイランド州)とパートナーシップを結び、「コンビニエント・ケア・クリニック」 (注1)として協力している。

 オバマ大統領は2009年に「HITECH法」(The Healthcare Information Technology for Economic and Clinical Health Act)を成立させ、全国規模の医療ITインフラの構築に多額の予算を確保し、電子カルテ(EMR:Electronic Medi-cal Records)や生涯健康医療電子記録(HER:Electronic Health Records)の導入に経済的インセンティブを設けた。これはEMRやHERを導入した医療機関に対して、総額250億ドルの支援を行う制度である。その結果、医師、病院ともにEMRやHERの導入率が増えている。

メディケアによる締め付け

 最近、米国の医療機関を訪問すると、口をそろえて主張されるのが、メディケアの支払いの厳しさである。

 旧来、Capitationでは医療の質が問題になった。すなわち経済的なdisincentive(意欲を削ぐもの)に基づく過少医療の問題である。古くは英国で指摘され、最近の英国ではP4P(Pay for Perfor-mance:医療の質に応じて支払いも変化させようというプログラム)として、アウトカム指標により経済的なインセンティブを付けるようになったことは記憶に新しい。もう一つは、支払い側にとってもデータの入手が容易になるなど、他の医療機関や全米のベンチマーク的な機関との比較を行うことで、過小医療は容易に発見できるようになった。

 なお、ハワイ州のデータ(kuwakini病院での説明資料、2016年1月)によると、保険償還率はメディケアの場合、全米平均で82%、最低は55%、ハワイ州では87%で、メディケイドの場合は全米平均で82%、最低は57%、ハワイ州で66%。民間保険は逆に全米平均149%、最低は119%、ハワイ州で133%である。

 言い換えれば、償還率がいい民間保険の患者を診ないと、病院は赤字になってしまうという状態である。さらに、30日以内の再入院に対してのペナルティーや入院中の合併症治療費用が支払われなくなったこと、監査の強化、「財政の崖」 (注2)での償還費用2%カットなどで、メディケアの患者は、病院にとってはメディケイドよりも厳しく、患者を診れば診るほど病院経営が苦しくなるという状況ともいえる。

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