第101回 原発へのミサイル攻撃 南淵明宏(昭和大学教授)
先日、さる方と話す機会があった。
「原発がミサイルで攻撃されたらどうなるんですか」
誰が考えても、日本海側に居並ぶ原子力発電所は他国のミサイル攻撃の格好の標的だ。原発がミサイルで被弾してひとたびメルトダウンに陥れば、行政は混乱し、多数の国民の生活はどこかに消し飛ばされてしまう。
電力会社は実際に起こったメルトダウンの事実をするのに必死だし、政府は対策のための委員会を立ち上げるための法整備のための新たな委員会を立ち上げるべく、その準備の委員会を立ち上げるための人選をする委員会の準備のための水面下の根回しに大わらわになるだろう。敵国に反撃する余力などない。
すると、うれしい答えが返ってきた。
「原発にミサイルは絶対に飛んで来ませんよ」
これが戦争の常識だそうだ。つまり、戦争では軍事兵器は軍事兵器を狙う。だから、ミサイルは軍事基地に飛んで来る。それ以外の場所には絶対に飛んで来ないのだそうだ。
むかし「空軍大戦略」という超大作映画があった。第二次世界大戦中のドイツとイギリスの航空兵力の激突が描かれている。初めドイツのハインケルHe111爆撃機がイギリスの航空基地を爆撃した。もう少しでイギリスの戦闘機が飛び立つ航空基地が全てなくなってしまう、というところでイギリスはベルリンの市街地を夜間爆撃した(ロンドン市街地を誤爆したドイツへの報復だった、ということらしい)。
これに対して、ドイツはそれまでの空軍基地爆撃をやめ、報復としてロンドンなどイギリスの市街地を中心に爆撃することになり、そのせいでイギリスの航空兵力は息を吹き返した、というストーリーである。
この話からすると、やはり敵国が日本海側に整列している原子力発電所をミサイルで攻撃するのは一つの「戦略」である。だが、「ミサイルは絶対に原発には飛んで来ない」という。原子力安全委員会も原発のミサイル攻撃に対する防衛耐久性は問うていないようだ。
想像できる理由は二つある。
一つには、実は秘密裏に防衛している。しかし、それが公になると「やっぱり原発は狙われているのか。そんな危険なモノは即刻廃炉だ!」と誰もが思う。敵国も「やっぱ原発が弱点か。よおし! あそこにぶち込んでやろう!」と相手を利することになる。だから防衛していないことにしている、という可能性だ。
もう一つは、さまざまな兵器が精度を増し破壊力も強大になり、ひとたび国同士が交戦すれば両国が壊滅する、そんな認識が現代の常識。これでは国同士の武力衝突の可能性などこれから未来永劫、起こり得るはずがない、という可能性だ。
しかし、軍備は必要だ。いわゆる「軍産複合体」のビジネスだからだ。そして、おびただしい武器の銃口はいずれ自国民に向けられる。古今東西、国家はその権力を自国民に示すため、軍備を使う。戦争に勝つためではなく、メンツを保つため。沖縄戦のある記録では、13歳以下の県民の死亡理由で一番多いのは「日本軍による銃撃」だったということだ。
先日、TBSでやっていた。世界の軍事費の7%のお金で地球上から飢餓はなくなるそうだ。
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