宮田律(みやた・おさむ)現代イスラム研究センター理事長
1955年山梨県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科修士課程修了。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院歴史学科修士課程修了。静岡県立大学准教授などを経て、2012年から一般社団法人現代イスラム研究センター理事長。専門はイスラム地域研究、国際関係論。著書は『現代イスラムの潮流』『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』『アメリカはイスラム国に勝てない』など多数。
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「イスラム国」(IS)に代表されるイスラム過激派のテロや政情不安で揺れている中東・イスラム地域。反米感情が根強いだけに、日本は対米重視に傾き過ぎると、リスクを背負うことにもなりかねない。この地域に石油の9割近くを依存している日本は、どう向き合えばいいのか。イスラム地域の政治を研究している現代イスラム研究センターの宮田律理事長に聞いた。
——日本とイスラム諸国との関係をどう見ますか。
宮田 今のところ友好関係にあります。日本と対立している国はないので、その状態は維持すべきです。イスラム教徒は世界に約16億人いて、イスラム教徒が多数を占める国は約60カ国にのぼるので、関わり方はとても大切です。気になるのはイスラエルとの関係です。安倍(晋三)政権はイスラエルとの関係を急激に深めています。日本は武器輸出三原則で国際紛争当事国への武器輸出を禁止していましたが、2014年に閣議決定した新たな三原則で基準を緩和しました。これによって、日本はイスラエルとの防衛協力、兵器の共同開発に踏み切りました。平和国家日本の原則を覆す政策転換なので、反イスラエルのイスラム諸国にどのように受け止められるか心配です。
——中東・イスラム諸国の人々は日本にどのようなイメージを持っていますか。
宮田 まず、日本の科学技術力は高く、日本人は一律に頭がいいという認識を持っています。それは日本車の普及に表れています。サウジアラビアのタクシーは100%トヨタ製です。イスラム国が使っているのも、耐久性がいいとの理由でトヨタ車です。アフガニスタンやパキスタンの人々は、購入した日本製中古車の車体に描かれた「○○旅館」とか「××自動車教習所」といった装飾があるまま乗っています。それが彼らのステータスシンボルになっています。若者は日本のアニメも好きですね。ドバイの紀伊国屋書店は世界で一番売上がいいらしい。アラブの王族が漫画をどっさり買っていくといいます。
——技術面以外に評価されている点は?
宮田 第2次世界大戦後の荒廃からの急速な復興と経済成長があります。イラクやアフガニスタンは戦争が終わってもまだ復興したとは言えません。日本は敗戦から19年で五輪を開催しました。これは驚嘆すべきこととして受け取られています。私は先日、来日したパキスタン人を広島に案内する機会があったのですが、記念写真の背景は原爆ドームよりも普通の街並みの方がいいと言われました。敗戦の象徴より復興を成し遂げたスピリットに興味があるのです。
——イスラム諸国の人々は政治的には反米ですね。
宮田 イラク戦争が対立を深める大きなきっかけになりました。米国が攻撃理由とした大量破壊兵器などありはしなかった。2001年の同時多発テロと当時のフセイン大統領を結び付けましたが、根拠のない攻撃でした。日本は米国を真っ先に支持しましたが、国際的な評判はよくありませんでした。米国が中東に介入したがるのは、原油利権を得たいのと米国製の武器をたくさん売りたいからです。米国は同盟国としてイスラエルに毎年30億㌦の経済支援を行っていますが、そのほとんどが武器の購入に費消されています。米国によるイスラエル支援は露骨で、イスラムから見ると筋が通ったものではありません。そこにも反米テロが起こる素地があります。イスラムが政情不安になると庶民は陸続きの欧州に難民として逃げます。逃げた人々は住み着いた国で社会の底辺を形成して、さらに不満が鬱屈し、組織的なものから通り魔的なものまでさまざまな形のテロになって現れます。11年に米国はテロの脅威はイラクからなくなったと言って撤退しましたが、これからどうするかという知恵が全然見えてきません。
米国がつくったイスラム国の温床
——そういったことが、ISが勢力を拡大できた背景になったのですね。
宮田 イラク戦争は大きな要因でした。フセイン政権が崩れて失職した官僚や軍人がイスラム国にたくさんいます。米国はイラクを図式的に考え、フセインはスンニ派だったからとスンニ派を公職追放したら、彼らが今やISの先頭に立っています。人々は混沌とした世界で食べていくことに一生懸命。食べられる勢力についていきます。今いる勢力が不利になれば、別の武装勢力についていきます。米国は穏健派集団に武器供与していますが、それがどこに流れているのか、分かったものではありません。イスラム過激派の怖いところは、米軍が軍事的に制圧しても、別の政治的に不安定で秩序のないところで活動を続けることです。イエメン、リビア、アフガニスタンなどに行って活動を続けられては、まさにイタチごっこ。本質的な対応が求められます。
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