多摩大学大学院教授 真野俊樹
ハワイの医師関連情報
米国の医学部は144ある。そのうち、1学年の定員が70人と少人数なのがハワイ大学医学部である。全米では約5万人が医学部を受験し、約2万8000人が医学部に入学できる。米国の医学教育は大学卒後教育で、博士コースであり、卒業後にM.D(医学士)の称号が得られる。
米国ではECFMG (Educational Com-mission for Foreign Medical Graduates:外国医学部卒業生のための教育委員会)が海外の医師の参入を規制しており、外国の医学部卒業生はUSMLE (United States Medical Licensing Examination:米国医師資格試験)の以下の試験を順次受ける必要がある。
・Step 1(基礎医学)
・Step 2 CK (Clinical Knowledge:臨床知識)
Step 2 CS (Clinical Skills:臨床技能)、OSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)
・Step 3(研修医の間に受験)
女性医師も増加している。2011年には医学部卒業生の約半数が女性で、レジデントは産婦人科、小児科が人気である。
クアキニ病院と医療の質の現状
1900年創設のクアキニ病院は米国に現存する唯一の日本人移民による慈善病院である。米国のTJC(The Joint Commission:病院評価機構)の認証を取得し、2015年現在、ハワイ州で6番目に大きな急性期病院である。病院間の競争も激しく、老人医療で特色を出そうとしている。
米国の医療の質に対する取り組みを、このクアキニ病院でのヒアリングをもとにして紹介したい。
HCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems:医療提供者と医療制度に対する消費者による評価)とは、米厚労省・公的医療CMSが要求する全国的な病院の調査である。これは、メディケア(高齢者・障害者の公的医療保険)かメディケイド(低所得者の医療扶助制度)の患者に対してのランダム調査であり、以下の項目について質問される。●Cleanliness of Hospital Environment、Communication about Medicines●Communication with Nurses●Communication with Doctors●Discharge Information●Overall Rating of this Hospital●Pain Management● Quietness of Hospital Environment●Responsiveness of Hospital Staff● Willingness to Recommend this Hospital.
この中で、痛みのマネジメントはどの疾患にも共通するもので、日本の病院では痛みのある病気以外ではあまりアセスメントされない。
プレスゲーニーは患者満足度についての調査大手の会社である。これも病院を退院した患者に対してランダムに調査票を送り、以下の項目についての満足度調査を行っている。●Admission●Emergency Room●Room●Meals●Nurses●Tests and Treatments●Visitors and Family●Physician●Discharge●Personal Issues●Overall Assessment.
医療の質については、CMSがベンチマーク用に調べるCore Measuresがある。これによって、メディケアからの病院への支払い金額が異なることになる。P4P(pay for performance)ともいうが、次の疾患について調査されている。●Acute Myocardial Infarction●Heart Failure●Pneumonia●Surgical Care Improvement / Surgical Infections Prevention (SCIP)●Emergency Department (ED) Throughput.
リハビリ病院REHAB
気候も相まってハワイにおけるリハビリテーションは人気がある。その中で、非営利病院のRehabili-tation Hospital of the Pacific(REHAB)を紹介したい。急性期のリハビリ病院として単独経営している病院はハワイ州ではここのみになる。紹介したクアキニ病院の前にあるが、両者に資本関係はない。
この病院は、TJC認証病院であり、70床の非営利病院とクリニックをオアフ島とハワイ島に一つずつ所有している。平均入院患者数は年間約1500人、外来では年間約4000人の患者をクリニックで診察している。患者の内訳は整形外科が37%で、脳卒中が29%。在宅復帰率は全米平均が79%なのに対し、85%と高い。
リハビリ入院前にはメディケアによるアセスメント項目を確認することが決められ、また退院前にも患者へアセスメントをすることになっている。入院後は日本でも使われているFIM(Functional Independence Measure:機能的自立度評価法)を使っている。
入院患者の平均年齢は66.5歳で、患者としてはメディケアが55.3%、メディケイドが11.2%、28%が民間保険で、残りは事故や労災である。
2016年10月から院内での転倒数、尿路感染数、褥瘡数なども含めたアウトカム評価、スタッフや患者へのインフルエンザ注射の徹底などが評価に加わる。
外来患者は47%が65歳以上、21%が55歳から64歳で、整形外科関連の疾患が50%、メディケアが44%である。その他、プール、車の運転の評価と訓練、ピラティス、視力のリハビリなども行っている。
聖フランシスホスピス
ハワイでも、最近ホスピスの重要性が認識されてきている。聖フランシスホスピスは 12床のカトリック系のホスピスである。ハワイのホスピスで唯一JCIの認証を取っている。
ホスピスについて、JCIは約200の評価項目を使うという。ホスピスに特徴的なものは、患者満足の他に、勤務していない医師(紹介先などで700人の医師、オアフ島には2000人の医師がいる)の満足度、残された家族の満足度といったものがある。
入居者は半数ががん患者、全患者のうちの23%が7日以内に死亡、入居準備の自宅待機も含めた平均在院日数は2〜3週間という。痴呆患者の入院は費用がかかるために求められていないという。
まとめ
日本では、米国医療に対する批判が多い。皆保険制度を持たない、医療費が高い、格差医療であるといった批判はもっともであるが、今回は民間の「緩さ」を感じることもできた。メディケアは国の制度であるので、決まったら交渉の余地はない。すなわち、民間医療保険があるので米国の医療費は高くなっており、米国医師もそれなりにQOL(生活の質)が高いともいえる。
翻って、日本では、医療費を国が決めており、医療費が安い。メディケアの厳しさと日本の厳しさは類似のものであろう。
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